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Channel: 元・副会長のCinema Days
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アラスター・グレイ「哀れなるものたち」

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 ヨルゴス・ランティモス監督による映画化作品が公開されているが、劇場に足を運ぶ前に、原作小説に目を通してみた。一読して、これはなかなかの曲者だと感じる。内容もさることながら、よくこの小説を上手い具合に翻訳して日本で出版できたものだと感心するしかない。読む者によっては変化球が効き過ぎて受け付けないのかもしれないが、屹立した個性を獲得していることは誰しも認めるところだろう。

 19世紀後半のスコットランドのグラスゴー。怪異な容貌の医師ゴドウィン・バクスターは、投身自殺した若い人妻ベラを救うため、妊娠中だった彼女の胎児の脳を移植し蘇生させるという神業的手術を成功させる。生まれ変わったベラは知識欲旺盛で、自分の目で世界中を見てみたいという思いに駆られる。そしてあろうことか、いい加減な弁護士のダンカン・ウェダバーンと出奔し、大陸横断の旅に出るのだった。

 この荒唐無稽な話が実はゴドウィンの自伝に載っていた話であり、しかもその自伝も劇中の小説家アラスター・グレイによる“発見”に過ぎないという、何やら最初から怪しげな臭いがプンプンしている。さらには後半に一度エンドマークが出たにも関わらず、その後には事の真相(らしきもの)が延々と語られるという、何が嘘か誠か分からないようなキテレツな様相を呈する。

 まあ、全体的に見ればヒロインの成長物語なのだが、その語り口は徹底してひねくれている。加えて、当初は精神年齢が幼く時間が経つにつれて成熟していくというベラの造型にマッチするように、文体自体も千変万化で読む者を翻弄する。グレイの著作の特徴として自筆のイラストを装幀、挿絵に使用することが挙げられるらしいが、これが徹底してオフビートで果たして小説の内容に合っているのかどうか判然としない。

 また、ベラの“心の叫び”みたいなものがページいっぱいに書き殴られるくだりは目眩がする思いだ。もちろん翻訳本だから“日本語で”書かれているのだが、まさに掟破りの暴挙だろう。文庫本にして500ページ以上ある長編で軽く読み通すには相応しくないシロモノながら、読後の充実感はけっこうある。だが、終盤に延々と続く“脚注”のページは余計だと思った。本文の途中に挿入するなり、別の方法があったと思われる。

 さて、すでに高い評価を得ている映画版の方だが、個人的にランティモス監督の前作「女王陛下のお気に入り」(2018年)は評価しておらず、あまり期待はしていない。とはいえ、賞レースを賑わせてはいるので観てみるつもりである。

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