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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「マエストロ:その音楽と愛と」

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 (原題:MAESTRO )2023年12月からNetflixで配信されているが、私は映画館で鑑賞した。往年の世界的音楽家レナード・バーンスタインと妻で舞台女優のフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインとの関係を描く伝記映画で、題材はかなり興味深い。ポイントは本作の演出を主役のブラッドリー・クーパーが担当していることで、“(一応はまだ2作目の)新人監督”らしい気負いが横溢している。そのあたりが賛否が分かれるところだろう。

 映画は晩年のレナードがマスコミのインタビューに答えるシーンから始まり、その中で彼はフェリシアに対する思いを吐露する。そこから時間が遡り、若き日のレナードがブルーノ・ワルターの後継者として楽壇に華々しくデビューする場面に移行する。それからフェリシアとの出会いと音楽家としての行程が描かれるのだが、実は彼はバイセクシャルであり、最初大きな仕事の連絡を受けた時は“彼氏”と一緒だった。結婚後も何人かの“愛人”と懇ろになり、それでもレナードを慕うフェリシアの苦悩が絶えることは無い。

 この複雑な状況を監督のクーパーはカラーとモノクロの映像の使い分けや、思い切ったロケーションと時制のワープ、後半にはワンシーン・ワンカット技法の多用など、ケレン味たっぷりの手練手管で表現してくる。これが効果的だと受け取れば本作の評価は高くなるが、逆に過剰に映ればヴォルテージは落ちる。個人的にはどうかといえば、“えらく肩に力が入っているなぁ”とは思うが、そんなに否定する気にはならない。それどころか、対象に肉迫しようとする作者の覇気が感じられて好ましくもある。

 また、演奏シーンの出来の良さには感心した。2023年に観た「TAR ター」なんかとは次元が違う。主演のクーパーの指揮ぶりも本物のパフォーマンスを随分と勉強した跡が見受けられた。特にマーラーの2番が鳴り響く場面は盛り上がる。とはいえ、劇中で主人公が“作曲家としての仕事が限られている”みたいなことを言うように、指揮者としての名声が先行するのは不満だろう。かくいう私も、実は指揮者バーンスタインの個性は好きではない。もちろん映画の中では作曲作品にも触れてはいるが、もっとクローズアップしても良かった。

 フェリシア役のキャリー・マリガンは熱演している。だが、彼女は私が苦手とする女優の一人なので、諸手を挙げての評価は控えさせていただく。娘ジェイミーに扮しているのはマヤ・ホークで、悪くはないが有名俳優の両親のレベルに達するにはまだまだである。あと印象的だったのは、カズ・ヒロによる特殊メイク。よくぞここまでマエストロに似せたものだと、感服するしかない。

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