今年(2023年)公開された行定勲監督&綾瀬はるか主演による映画化作品は観ていないし、そもそも観る気も無かった。事実、評判もあまりよろしくなかったようだが、この原作の方は大藪春彦賞を獲得して評価されていることもあり、取り敢えず読んでみた次第である。感想だが、とにかく長い。長すぎる。何しろ文庫版で642ページもあるのだ。それでも中身が濃ければ文句は無いのだが、これがどうも釈然としない内容。ストーリーを整理してこの半分ぐらいに切り詰めれば、タイトな出来映えになっていたかもしれない。
大正末期の1924年。関東大震災から1年が経ち、東京の街の復興は順調に進んで以前のような活気を取り戻しつつあった。幣原機関で訓練を受けて16歳からスパイとして任務に従事し、東アジアを中心に50人以上を暗殺した小曽根百合は、その頃は引退して東京の花街で女将をしていた。あるとき、消えた陸軍資金の鍵を握る少年・慎太と出会ったことで、彼女は慎太と共に陸軍の特殊部隊から追われるハメになる。
アメリカ映画「グロリア」(80年)を思わせる設定だが、緊張感はあの映画にはとても及ばない。危機また危機の連続ながら、似たようなシチュエーションの繰り返しで途中から飽きてくる。主人公たち以外にも数多くのキャラクターが登場するが、意外にもそれらは深く描き込まれておらず、(敵の首魁も含めて)どれも呆気なく退場だ。
そもそも、こういう題名を付けるからにはヒロインの銃器に対する執着を過剰なほど書き綴っても良いと思うのだが、淡泊で物足りない。ラストは予定調和ながら、カタルシスをを覚えるところまでは行かず。率直に言って、ヒロインの“現役時代”をアクション満載で語った方が盛り上がったと思う。
また、舞台を大正時代に設定したことで町中で銃撃戦が勃発することの不自然さを払拭出来たのは良いとして、その時代の空気感の描出は不十分。単にレトロな大道具・小道具を並べただけのように思う。とはいえ、作者の長浦京にとってはこれが二作目で(発表は2016年)、これ以降もコンスタントに作品を発表しており、今は高い実力を身に付けている可能性は大いにある。機会があれば最近の作品も読んでみたい。