(原題:LOVE AT FIRST SIGHT )2023年9月よりNetflixから配信されているラブストーリー。そんなに褒めあげるような出来ではないのだが、なかなかチャーミングな作品で観て損はしないと思った。語り口のユニークさはもとより、キャラクター設定がよく考えられているのは評価したい。上映時間も91分とコンパクトで、物足りないと感じる前にエンドマークを迎えるのは有難い(笑)。
ロンドンに住む父親の二度目の結婚式に出席するため、ニューヨークから英国行きの飛行機に搭乗しようとしたハドリー・サリヴァンは、遅刻のため後発の便に乗り込むことになる。その隣の席に座ったのが、空港で偶然知り合ったオリバー・ジョーンズという若い男。2人は良い雰囲気になり降機後にまた会おうと約束するが、運命のいたずらにより連絡が取れなくなる。ジェニファー・E・スミスによる恋愛小説の映画化だ。
家を出た実母に対する思いと、新しい伴侶を得た父親への複雑な感情に翻弄されるハドリーの描写は悪くないが、オリバーの造形が面白い。彼はサプライズな出来事が大嫌いで、すべてを“確率論”で片付けようとする。そのため、大学院で数学を極めようとしているほどだ。しかも、“ナレーター”役の登場人物が所かまわず現れて“この局面でこういう行動が取られる確率は○○%”みたいな説明をしてくれるのだから苦笑するしかない。
だが、本当はオリバーも“世の中、予想も出来ないことばかりだ”と内心思っている。彼がロンドンに赴いたのは、難病で余命いくばくもない母親テッサの“生前葬”に出席するためだ。オリバーはテッサの“余命”に関する確率をあれこれ考えるが、人生というのは計算ずくで推し量れるものではない。そんな本当のことに向き合っていく彼の心の動きを追うプロセスは、けっこう納得できる。すれ違いを続けるハドリーとオリバーのアバンチュールを綴るストーリーは予想通りで、何ら新味はない。エンディングも型通りだ。しかし、作品の性格上これで良いと思う。
ヴァネッサ・キャスウィルの演出は派手さはないものの、ドラマ運びはスムーズである。主演のヘイリー・ルー・リチャードソンとベン・ハーディは初めて見る俳優ながら、共に嫌味の無い好演だ。ジャミーラ・ジャミルにロブ・ディレイニー、サリー・フィリップス、カトリーナ・ナレといった脇の顔ぶれも的確な仕事をしている。そして何より、ルーク・ブライアントのカメラによるクリスマス時期のロンドンの風景は本当に美しく、観光気分が存分に味わえる。