この題材を取り上げたこと自体は評価する。今まで映画関係者の誰もが興味を示さなかった“日本の負の歴史”に果敢に切り込んだ、その姿勢は見上げたものだ。しかし、ネタの秀逸さと映画のクォリティとは、別の話である。端的に言って、この作品は掘り下げが足りない。ヘヴィな素材に対峙するためには強靭な求心力を持って臨まないと良好な結果には繋がらないはずだが、本作はどうも煮え切らないのだ。
1923年(大正12年)に千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で起こった、香川県から来た薬の行商団15名が関東大震災後に狼藉をはたらいていたとされる朝鮮人と間違われて地元の自警団に襲われ、うち9名が殺害されるという凄惨な事件を描くこの映画。最も重要なモチーフは、この出来事の背景であることは論を待たない。
なぜ一般市民が凶行に走ったのか、どうして朝鮮人が悪者扱いされていたのか、そのあたりをテンション上げて描かないと絵空事になってしまうのだが、本編ではほとんど言及も考察もされていない。ただ群集心理によって流言飛語に惑わされてしまったという、ありきたりな構図が差し出されるだけだ。
登場人物たちの造形の粗さも愉快になれない。悪さをするのは最初から思慮が浅い無教養の連中で、犠牲者を庇おうとするのは元々リベラルなスタンスを持った人間であるという、大雑把な見解が罷り通るのみ。たとえば普段は善良そうな者がイレギュラーな事態に直面するとインモラルな本性を現すとか、反対に素行の良くない奴がいざという場合に頼りになる行動を起こすとか、そういう映画的に盛り上がりそうな展開は一切出てこない。
そもそも、当時は日本統治下にあった京城(現・ソウル)で教師をしていたが事情によって故郷の千葉県福田村に帰ってきた澤田智一とその妻のメロドラマ的なパートや、プレイボーイを気取った船頭の“武勇伝”や、旦那の出征中に舅と懇ろになる嫁の話など、映画の本題とは直接関係のない話が必要以上に多い。かと思えば、正義感あふれる若い女性新聞記者に理想論を語らせるといった、取って付けたようなネタまである。
極めつけは、クライマックスとなるべき凶行場面の描写が生温いことだ。あからさまな残虐描写はマーケティング上(?)不利だと予想したのかもしれないが、そこを避けてしまっては何もならないだろう。監督の森達也はドキュメンタリー畑の人材であり、劇映画を手掛けるのは初めて。作劇がぎこちないのはそのためかもしれないが、この起用は承服しかねる。
そして気になるのは、映画の企画担当で脚本にも参加している荒井晴彦の存在だ。彼がこういうテーマを扱うと、団塊世代らしい(左傾の)ルーティンに陥りがちだが、今回もその轍を踏んでいる。井浦新に田中麗奈、コムアイ、向里祐香、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明ら多彩なキャストを集め、東出昌大に深い演技をさせていないのも的確だが(苦笑)、映画が思わぬライト級に終わってしまったので、評価は差し控える。
1923年(大正12年)に千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で起こった、香川県から来た薬の行商団15名が関東大震災後に狼藉をはたらいていたとされる朝鮮人と間違われて地元の自警団に襲われ、うち9名が殺害されるという凄惨な事件を描くこの映画。最も重要なモチーフは、この出来事の背景であることは論を待たない。
なぜ一般市民が凶行に走ったのか、どうして朝鮮人が悪者扱いされていたのか、そのあたりをテンション上げて描かないと絵空事になってしまうのだが、本編ではほとんど言及も考察もされていない。ただ群集心理によって流言飛語に惑わされてしまったという、ありきたりな構図が差し出されるだけだ。
登場人物たちの造形の粗さも愉快になれない。悪さをするのは最初から思慮が浅い無教養の連中で、犠牲者を庇おうとするのは元々リベラルなスタンスを持った人間であるという、大雑把な見解が罷り通るのみ。たとえば普段は善良そうな者がイレギュラーな事態に直面するとインモラルな本性を現すとか、反対に素行の良くない奴がいざという場合に頼りになる行動を起こすとか、そういう映画的に盛り上がりそうな展開は一切出てこない。
そもそも、当時は日本統治下にあった京城(現・ソウル)で教師をしていたが事情によって故郷の千葉県福田村に帰ってきた澤田智一とその妻のメロドラマ的なパートや、プレイボーイを気取った船頭の“武勇伝”や、旦那の出征中に舅と懇ろになる嫁の話など、映画の本題とは直接関係のない話が必要以上に多い。かと思えば、正義感あふれる若い女性新聞記者に理想論を語らせるといった、取って付けたようなネタまである。
極めつけは、クライマックスとなるべき凶行場面の描写が生温いことだ。あからさまな残虐描写はマーケティング上(?)不利だと予想したのかもしれないが、そこを避けてしまっては何もならないだろう。監督の森達也はドキュメンタリー畑の人材であり、劇映画を手掛けるのは初めて。作劇がぎこちないのはそのためかもしれないが、この起用は承服しかねる。
そして気になるのは、映画の企画担当で脚本にも参加している荒井晴彦の存在だ。彼がこういうテーマを扱うと、団塊世代らしい(左傾の)ルーティンに陥りがちだが、今回もその轍を踏んでいる。井浦新に田中麗奈、コムアイ、向里祐香、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明ら多彩なキャストを集め、東出昌大に深い演技をさせていないのも的確だが(苦笑)、映画が思わぬライト級に終わってしまったので、評価は差し控える。