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ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」

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 カウンターカルチャーにも大きな影響を与え、ボブ・ディランも絶賛したという、ビート・ジェネレーションの誕生を告げた名著と言われる一冊。執筆されたのは1951年で、出版されたのは1957年。日本では「路上」のタイトルで1959年にリリースされているが、2007年からは「オン・ザ・ロード」の題名で新訳本が発売されている。

 1948年のニューヨーク。離婚して落ち込んでいた作家のサル・パラダイスは、やたらテンションが高い友人のディーン・モリアーティに誘われて、西海岸までの気ままな旅に出かける。この長い行程の旅は劇中で4回おこなわれ、2人は道中でいろんな経験をして、さまざまな人間と出会う。主人公はケルアックの分身で、ディーンは彼の悪友だったニール・キャサディ、他の登場人物も作家仲間のアレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズをはじめ、大部分が実在の人物をモデルにしているらしい。

 とにかく、かなり読みにくい本であるのは確かだ。まず、段落で分けられている箇所が極端に少なく、文章が切れ目なく延々と続いていくのには閉口した。加えて、海外文学の翻訳本(特に文庫本)には付き物の、登場人物の紹介欄が無い。だから、キャラクターの数はやたら多いにも関わらず、誰が誰だか分からない。エピソードは文字通り行き当たりばったりで、ストーリー性は希薄だ。

 しかし、あてのない旅に興ずるサルとディーンの姿には、戦後すぐの虚脱感が横溢したアメリカの風景が投影されていると思う。何か目標があって歩みを進めるわけでもなく、さすらうこと自体が目的化している寄る辺ない人間模様が垣間見える。本書は5つのパートに分かれているが、勝手に書き飛ばしているような1部から3部までは正直退屈だった。

 しかしメキシコまで足を延ばす4部と、主人公たちの“その後”に言及されている5部は面白い。長い放浪の果てにも、いつかは自分自身と世の中に向き合わなければならない局面がやってくるのだ。そこにどう折り合いを付けるか、それが人生を決定する。ケルアックは生前は“ヒッピーの父”などと呼ばれていたらしいが、実は保守派で反共主義者、ベトナム戦争にも反対していなかったというのは興味深い。

 なお、本編は2012年に映画化されている。ただし、アメリカ映画ではなくブラジルとフランスの合作であったためか、あまり目立たず私は見逃している。ただ監督が「セントラル・ステーション」(98年)などのウォルター・サレスでカンヌ国際映画祭にも出品されており、けっこう見応えはあると想像する。いつか観てみたい。

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