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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ゼイ・クローン・タイローン 俺たちクローン?」

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 (原題:THEY CLONED TYRONE)2023年7月よりNetflixより配信。奇妙なテイストが味わえるシャシンだ。とびきり面白いわけではないが、独特の世界観と気の利いた御膳立てにより最後まで楽しませてくれる。また表面的にはふざけているようでいて、けっこう硬派の社会派ネタも挿入されており、鑑賞後の印象は強い。

 時代設定はたぶん80年代後半から90年代初頭。ジョージア州アトランタのアップタウンに暮らすヤクの売人のフォンテーヌはその日も“仕事”に出かけるが、同業者との縄張り争いに巻き込まれ、銃弾を浴びて死亡する。ところが次の瞬間、時間は当日の朝へと逆戻りし、彼は自室で目を覚ます。そして似たようなことを繰り返すハメになるが、時間がループしているのではないかと疑ったフォンテーヌは、ポン引きのスリックと娼婦のヨーヨーと共に謎を追い始める。すると街の地下に怪しげな施設が存在していることが判明し、そこでは世の中をひっくり返すような陰謀が展開されていた。

 ハッキリ言ってこのタイトル自体がネタバレに近い(笑)。とはいえ、序盤は最近よくあるタイムループ物かと思わせて、実はハードSF寄りの話に収斂されるという仕掛けは悪くない。しかも、主人公たち3人をはじめ登場人物の大半が黒人。だから劇中での陰謀とはBLM(ブラック・ライヴズ・マター)に関するものかと思ったらその通りになる。もちろんその企み自体は荒唐無稽であるが、いかにも世にはびこるエセ保守層が夢想しそうなことで、観ていて苦笑してしまった。

 ジュエル・テイラーの演出はテンポの良さよりも各キャラクターを立たせることに腐心しているようで、主役3人の掛け合い漫才のようなセリフの応酬には“(無駄話はほどほどにして)早いところストーリーを進めろよ!”と心の中で突っ込みながらもニヤニヤしながら眺めていられる。レトロ風味を狙った粒子の粗いザラザラした画面も効果的だ。

 主演のジョン・ボイエガとジェイミー・フォックス、テヨナ・パリスは絶好調。特にボイエガの文字通り“多面的”な演技の幅の広さは強く印象付けられる。敵役のキーファー・サザーランドもイイ味を出している。使用楽曲はもちろんブラック・ミュージック中心。昔のナンバーも網羅されてはいるのだが、映像の建て付けとは一見マッチしていないような最近のR&Bも上手い具合にフィーチャーされている。

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