(原題:MALAVITA)この頃あまりパッとしなかったリュック・ベッソン監督作にしては、けっこう楽しめる。ただしこれは、プロデュースを担当するマーティン・スコセッシが手綱を握ってストーリー面での迷走を抑えたことが大きいと思う。何しろ、スコセッシが製作に絡んだことに基因する小ネタも散見されるほどだ(笑)。
フランスのノルマンディー地方の田舎町にアメリカ人のブレイク一家が引っ越してくる。この一家の主フレッドは元々ニューヨークを根城にしていたマフィアで、警察への密告によりボスが逮捕されたため、FBIの証人保護プログラムにより家族ともども“避難”を強いられている。お目付役としてFBIのスタッフも同行しているが、何せこの一家は揃いも揃って“口よりも先に手が出る”タイプ。行く先々でトラブルを引き起こし、この辺鄙な場所に流れ着いてきたのだ。
フレッドがいい加減な仕事をしていた水道配管業者をボコボコにしたのを皮切りに、アメリカ人をバカにする現地民に怒った妻がスーパーマーケットを爆破し、長女は高校でナンパしようとしたチャラ男を半殺しの目に遭わせ、同じ学校に通う長男は学内で裏シンジケートを結成。その暴れっぷりが乾いたブラックユーモア仕立てでテンポよく描かれているため、残虐度ゼロの爽快さで見せきってしまう。またそれが、アメリカとフランスとのカルチャーギャップを下敷きにしているのも痛快だ。
それでも何とか地元に溶け込もうとする一家の、涙ぐましい奮闘ぶりもおかしい。圧巻は、町の映画鑑賞会で「グッドフェローズ」が上映されるくだりだ。言わずと知れたスコセッシの代表作で、しかもアメリカ人として上映後のレクチャーを依頼されるフレッドに扮しているのがロバート・デ・ニーロというのだから笑える。
フレッドは“自分の経験”を元にしたマフィアの生態を得々と披露して地元民から大喝采を浴びてしまうが、言うまでもなくこれはスコセッシ作品の“総括”を勝手にやっているセルフ・パロディである(爆)。
やがて、ひょんなことから一家の所在を知った服役中のマフィアのボスが、殺し屋集団をノルマンディーに派遣。ブレイク家とのバトルに発展するが、このあたりの描写は意外と淡白だ。まあ、それより前に描きたいことは全部描ききってしまったので、終盤の活劇は“オマケ”に過ぎないのだろう。
妻役のミシェル・ファイファー、一家を監視するFBI捜査官を演じるトミー・リー・ジョーンズ、共に好演かつ怪演。長女に扮するディアナ・アグロンが女子高生役だと、どうしてもTVシリーズ「glee」を思い出してしまうが、今回は歌と踊りのシーンはない(←当たり前だ)。なお、タイトルのマラヴィータとは、一家が飼っている犬の名前である。