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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「銀河鉄道の父」

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 これは酷い出来だ。作り手は何を考えてこのシャシンを手掛けたのか、その能動的な意図がまったく伝わってこない。せいぜい門井慶喜による原作小説が直木賞を獲得し好セールスを記録したことに便乗して取りあえず映画化したという、安直な動機しか思い付かない。もっとも、私は原作は読んでいないし今のところ読む予定も無いのだが、この映画のような低レベルの内容ではないと信じたい。

 明治29年、岩手県で質屋を営む宮澤政次郎と妻イチの間に待望の長男が生まれる。賢治と名付けられたその子は、家業を継ぐ立場でありながら長じても適当な理由をつけてはそれを拒んでいた。農業大学への進学や人工宝石の製造といった好き勝手な生き方を選ぶ賢治に手を焼く政次郎だったが、最終的にはいつも甘い顔を見せてしまう。だが、教職に就いていた妹のトシが病に倒れたことを切っ掛けに、賢治は故郷に腰を落ち着けて執筆活動に専念する。



 タイトルが“銀河鉄道の父”であり、一応は政次郎が主人公のはずだが、キャラクターがまったく練り上げられていない。自身のポリシーやアイデンティティーが希薄で、賢治に対しては単なる親バカだ。この際だから政次郎の生い立ちからじっくり描くべきではなかったか。かといって、他の登場人物が掘り下げられているかといえば、まったくそうではない。賢治は気まぐれな問題児でしかなく、才気の欠片も感じられない。イチやトシ、政次郎の父の喜助、賢治の弟の清六など、ただ“そこにいるだけ”の存在で魅力ゼロ。

 成島出の演出は平板で、ストーリーの起伏などまるで考えていないような案配だ。一方でイチや賢治が世を去る場面だけは必要以上の愁嘆場が用意されており、これは御涙頂戴路線の最たるものだろう。「雨ニモマケズ」を怒鳴るように暗誦する場面も意味不明だ。

 主演の役所広司と菅田将暉はかなりの熱演。しかし、森七菜や豊田裕大、益岡徹、坂井真紀、田中泯など他のキャストは大した仕事をさせてもらっていない。映像は奥行きに乏しく、時に荒っぽい合成などが挿入されるなど、観ていて盛り下がる要素が満載だ。海田庄吾と安川午朗による音楽も印象に残らず。そして極めつけは、あまりにも場違いな“いきものがかり”によるエンディング・テーマ曲だ。これがまあ聴感上かなりの音量で鳴り響き、最後までウェルメイドな時代ものを期待していた善男善女の観客の皆さんも、一斉に腰が引けたことだろう。

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