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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ボクたちはみんな大人になれなかった」

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 2021年11月よりNetflixより配信。主人公の生き方を肯定するわけではないが、理解はできる。言い換えれば、劇中の登場人物たちの境遇とは接点のない人生を送っている観客に、彼らの存在感を認めさせた時点で本作は成功したと言って良いだろう。的確な時代考証も含めて、鑑賞して損のない作品だと思う。

 40歳代半ばの主人公佐藤誠は、テレビ番組のテロップ等を作る会社に勤めて約30年経つが、仕事面で大きな功績を残したわけではなく、交際相手の石田恵との結婚にも踏み切れない。煮え切らない日々を送る彼は、いくつかの再会をきっかけに昔のことを思い出す。まだバブルの余韻があった90年代前半に、佐藤はトレンディな(笑)世界と思われていたテレビ業界に職を得る。



 とはいえ番組制作のツールを手掛ける請負会社のスタッフに過ぎないのだが、それでも佐藤はここから頭角を現して小説家としてのデビューも飾りたいとの希望は持っていた。やがて加藤かおりという恋人も出来て、人生本番というときに前に進まなくなる。作家の“燃え殻”による同名小説の映画化だ。

 タイトルとは異なり“大人になれなかった”のは主人公だけだろう。百歩譲っても、佐藤と近しい何人かがモラトリアムの次元にいるに過ぎない。あるいは“大人になれなかった”ことを見届ける前に主人公の元から離れてしまう。本当はかおりと別れた時点で佐藤は自身の生き方を見直すべきだったのだが、そうしないまま中年に達してしまった。ただ、こういう奴を嫌いになれないのも、また事実。

 映画は現在から時間を遡って進行するが、主人公がどうしてこういう選択をしたのかは、その時点ではそれほど不合理ではなかった点が面白い。要するにそれは、時代の“空気”というものだろう。特に90年代の明るい雰囲気の描出は、確かに佐藤のような者の存在は少しも不自然ではないと思わせる。それだけに、時制が現代に戻る終盤の扱いはホロ苦い。これが監督デビューになる森義仁の仕事は堅実で、元々はMVやCMの製作者だったにも関わらず、小手先の映像ギミックには決して走らない。

 主演の森山未來は複数の年齢層を違和感なく演じていて感心したし、ヒロイン役の伊藤沙莉もヒネくれた女子を上手く表現していた。東出昌大にあまり演技力が必要ではない役を振ったのも賢明だし(苦笑)、大島優子に篠原篤、岡山天音、萩原聖人、徳永えり、原日出子、SUMIRE、片山萌美など、良いキャストを集めている。それにしても、WAVEのビニール袋にはウケた。六本木のあの商業施設には、私も何度も足を運んだものだ。本当に懐かしい。

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