2021年12月よりNetflixにて配信。楽しく観ることができた。ビートたけしの自伝的小説の映画化だが、たけしよりも師匠の深見千三郎を主人公として描き込んでいる点が気に入った。型破りだったたけしが、昔気質の芸人である深見にどれだけ影響を受けていたか、そのあたりを垣間見られるだけでも価値がある。
昭和40年代の浅草。ストリップ劇場兼お笑いライブ会場のフランス座でエレベーターボーイをしていたタケシは、座長の深見に師事し、いつかステージに立って観客を沸かせることを夢見ていた。深見の指導は厳しかったが、タケシは芸をこよなく愛する彼を慕っており、また歌手を目指す踊り子の千春や深見の妻の麻里などの周りの人間にも恵まれ、少しずつ腕を上げていく。だが、テレビの普及に伴いフランス座の客足は目に見えて減り、経営は火の車。とうとうタケシは先輩のキヨシと共にフランス座を飛び出し、その過激な漫才スタイルで人気を獲得していく。
本作を観ていると、毒舌満載で斬新だったビートたけしの芸風が、実は伝統的なお笑いの王道を歩んでいた深見のスタイルを踏襲していたことが分かる。たけしは師匠からは基礎的な芸事を叩き込まれ、どこに出ても通用するようなスキルを身に付けることが出来た。だから、いくら自分が売れても、恵まれない境遇に追い込まれた深見のことを忘れはしない。
何かと理由を付けて師匠の元に足繁く通う彼の姿は、けっこう泣かせる。そして、それを分かっていながらタケシを不肖の弟子扱いしてイジりまくる深見の振る舞いは、芸における理想的な師弟関係を映し出していて感心する。
劇団ひとりの演出は前作「青天の霹靂」(2014年)に比べるとかなり進歩しており、作劇のリズムはそれほどでもないが、各登場人物の内面はうまく表現している。深見役の大泉洋は、いつもの通り“何をやっても大泉”なのだが(笑)、今回は彼の持ち味と役柄が驚くほどシンクロしており、たぶん深見自身もこういう人だったのだろうという印象を受ける。
タケシに扮する柳楽優弥はさすがのパフォーマンスで、ただのモノマネにならないギリギリの線でこの突出した漫才師を表現していた。門脇麦に土屋伸之(ナイツ)、中島歩、大島蓉子、風間杜夫、鈴木保奈美など、脇の面子も多彩だ。高木風太のカメラによる風情のある浅草の風景、大間々昂の音楽や桑田佳祐による主題歌も良かった。