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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「キングスマン:ファースト・エージェント」

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 (原題:THE KING'S MAN)前作(2017年)があまりにも低調であったため期待はしていなかったが、実際観てみると意外や意外の面白さだ。少なくとも、作品のアイデンティティを喪失したような最近の007シリーズよりは、スパイ映画としてのレベルはずっと高い。また歴史的事実に準拠したネタをふんだんに取り入れているため、重厚感さえ湛えている。これは必見と言えよう。

 20世紀初頭。英国の名門貴族であるオーランド・オックスフォード公は、軍隊を退役後に慈善活動を行っていた。しかし裏では、執事のショーラやポリーと組み、国際秩序を乱す者たちを制圧するというエージェントチームを結成して各種スパイ工作に励んでいた。そんな折、オーランドは盟友のキッチナー将軍から世界を転覆させようとする秘密結社“闇の狂団”の存在を知らされる。彼らの目的は、いとこ同士であるイギリス国王のジョージ5世とドイツ皇帝のヴィルヘルム2世、そしてロシア皇帝のニコライ2世を反目させて大戦争を起こすことだ。



 やがてオーランドたちの努力もむなしくサラエボ事件が勃発し、第一次世界大戦が始まってしまう。息子のコンラッドも含めたオーランドのグループは、戦争を早期に終わらせるために“闇の狂団”に対して戦いを挑む。国家権力から独立した諜報機関“キングスマン”の誕生秘話だ。

 とにかく、歴史上の人物が次々と登場するのが嬉しい。英国王たちやアメリカのウィルソン大統領はもちろん、この“闇の狂団”のメンバーというのが怪僧ラスプーチンにマタ・ハリ、レーニン、エリック・ヤン・ハヌッセンといった濃い面々で、それぞれが史実に近い行動様式を示す。それらのヒストリカルな事実と並行して、フィクションであるオーランドたちのミッションが展開するという段取りには拍手を送りたくなった。“闇の狂団”の首魁の正体は途中で分かってしまうが、それが瑕疵にならないほど作劇に力がある。

 マシュー・ヴォーンの演出は、前作とは比べものにならないほど筋肉質だ。また、オーランドチームが収集する情報が世界中のVIPの執事からのものであったり、コンラッドが従軍するくだりが「西部戦線異状なし」(1930年)を想起させるなどのネタも巧みだ。主演のレイフ・ファインズは絶好調で、王道のスパイ・アクションを披露している。

 ハリス・ディキンソンにジェマ・アータートン、ジャイモン・フンスー、チャールズ・ダンスといった顔ぶれは万全。ラスプーチン役のリス・エヴァンスの大暴れには笑ったし、トム・ホランダーが3人の王をすべて演じているというのも興味深い。ラストは続編の製作を匂わせるが、このまま舞台設定が現代に戻らずに、シリーズが歴史スパイ活劇路線に移行するのも良いのではないだろうか。

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