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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「薔薇の名前」

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 (原題:THE NAME OF THE ROSE)86年作品。公開当時はかなりの評判だったらしく、実際観ても面白い。歴史物としての佇まいと、本格ミステリーのテイストが絶妙にマッチし、独特の魅力をたたえている。また、原作者のウンベルト・エーコは記号論の大家でもあり、そのあたりを考慮して作品に対峙するのも面白いだろう。

 14世紀の北イタリア。イギリスの修道士ウィリアムとその弟子のアドソは、会議に参加するため山奥の修道院にやって来る。そこで彼らは、若い修道士が不審な死を遂げたことを知らされる。被害者は文書館で挿絵師として働いていたらしい。会議どころではなくなったウィリアムたちは事件の真相を探ろうとするが、何者かが彼らを妨害。やがて、さらなる殺人事件が起こる。老修道士は“これは黙示録の成就である!”と唱え、院内に動揺が走る。



 私は記号論に関してはまったくの門外漢だが(笑)、無理矢理に“それらしき解釈”をしてみると、本作の構図は各モチーフが見事に“記号化”していると言える。まず、主人公たち以外はマトモな人間が存在しない修道院内は、個人から隔絶された“世界”である。この“世界”というのは、映画の中の作品世界であると同時に、我々を取り巻く環境の暗喩だ。本当の“世界”は城壁に囲まれた修道院の外側にあり、ウィリアムたちはそこから遣わされた“超人”のような存在だろう。

 終盤に明かされる事件の真相は、まさしく“世界”の維持手段そのものが目的化してしまい、身動きが取れないリアルな状況を表現している。まあ、こう考えると一見複雑な本作の構成が、実は明確であることが分かる。加えて、ウィリアムとアドソの関係はシャーロック・ホームズとワトソンのそれと同等で、しかもウィリアムの出身地がバスカヴィルという設定には、主人公たちのヒーロー性がより強調される。

 ジャン=ジャック・アノーの演出は凝った舞台設定に足を引っ張られることなく、娯楽映画としてのルーティンを堅持している点が評価できる。主演のショーン・コネリーは“アクション抜きのジェームズ・ボンド”といった出で立ちで、存在感が屹立している。アドソ役のクリスチャン・スレーターも繊細な演技だ。

 他にF・マーリー・エイブラハムやロン・パールマン、フェオドール・シャリアピン・ジュニア、ヴォルカー・プレクテルといったクセの強い役者が顔を揃えているのは圧巻だ。そして何といっても、豪華なセットと“迷宮”のデザインの素晴らしさはこの映画のハイライトであろう。観る価値は十分にある。

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