(原題:If Anything Happens I Love You)2020年11月よりNetflixで配信。わずか12分間の短編アニメーションながら、強いインパクトを残す良作だ。アメリカの社会問題を取り上げていながら、そのテーマは普遍的である。第93回米アカデミー賞における、短編アニメーション部門での受賞作だ。
冒頭、互いに離れた席に座る夫婦が無言で食事をしている。ただ、彼らの内面を表現している“影”が、相手を罵っている様子が示される。母親は洗濯機の中から子供用の青いシャツを取り出し、そのまま泣き崩れる。ここで、すでに彼らの子供はいなくなってしまったことが分かる。次に映し出されるのが、かつての家族の幸せな様子。そしてラスト近くに、その子が両親のもとを去った理由が明かされる。
映画で扱われる“事件”は、もちろんアメリカ特有のものかもしれない。だが、どうしようもない社会の不合理で子供が命を落とす事例は、世界中にいくらでも存在している。あの時、ああしていれば子供は無事だったのかもしれないという両親の後悔が観る者の心を揺さぶると共に、この世界に蔓延る悲劇に、断固として声を上げていかなければという、作者のメッセージが痛いほど伝わってくる。
ウィル・マコーマックとマイケル・ゴビアによる演出は、画調をモノクロに近いレベルに設定し、時折現れる色彩を強調させることに腐心している。また、セリフはほとんど無いが、これが幅広い層にアピールできる要因でもある。
キャラクターデザインなどはスケッチ風のシンプルなもので、実にセンスが良い。リンジー・マーカスによる音楽も万全だ。スタッフの面子で興味を引いたのは、女優のローラ・ダーンがプロデューサーに名を連ねていることで、この問題に関心を持つハリウッドの有名人は少なくないのだと納得した。