(原題:DEAR EVAN HANSEN)多少の作劇の不備を承知の上で、断固として本作を支持したい。道に迷いそうになっていた若い頃を思い出し、胸が締め付けられる思いがした。また、日々生き辛さを感じている観客にとっては大いなる福音になるだろう。そして何より、このシビアな題材を扱った映画がミュージカルだというのが素晴らしい。元ネタの舞台版がトニー賞で6部門を獲得したというのも、十分頷ける。
南部の地方都市に住む高校生エヴァン・ハンセンはメンタルに問題を抱え、友達はおらず家族にも心を開けない。通っているセラピーで指導された“自分宛ての手紙”を図書館で書いていた彼は、問題児のコナーにその手紙を持ち去られる。ところが後日コナーは自ら命を絶つ。彼が握りしめていた件の手紙を見つけたコナーの両親は、エヴァンが息子の友人だと思い込む。エヴァンは彼らを苦しめたくないため、思わず“コナーとは親友同士だった”と話を合わせてしまう。彼の告白は大きな反響を呼び、学校ではコナーの死を無駄にしないためのムーブメントが巻き起こる。
いかに“成り行き上”とはいえ、ウソをついてしまう主人公には問題がある。このウソを貫徹するためには次から次とウソをつき通す必要があるが、高校生のエヴァンにとっては、それは越えられないハードルだ。だが、それにあまり違和感が無いのは、キャラクターが良く掘り下げられているからだと思う。
内向的だが何とかしてブレイクスルーを成し遂げたいエヴァンは、このチャンスを逃してはずっと閉じ籠るしかないと判断し、あえて“暴挙”に打って出る。だが、映画は主人公一人の苦悩の描写では終わらない。コナーやその家族はもちろん、自身の母親、そして勉学やスポーツに打ち込んで充実した学園生活を送っていたと思われた者たちも、内面では自分の将来や人間関係に対して大いなる屈託を抱えていたことが明らかになる。エヴァンを媒体として、その懊悩が学内はおろか世界的規模にまで露わになってゆく過程は説得力があり、十分感動的だ。
スティーヴン・チョボウスキーの演出は堅実で、ここ一番の盛り上げ方も堂に入っている。楽曲のレベルは大したもので、どのナンバーもしみじみと聴かせる(この前観た「イン・ザ・ハイツ」よりも数段上)。主役のベン・プラットは残念ながら高校生には見えないが(笑)、ケイトリン・デヴァーやアマンドラ・ステンバーグ、コルトン・ライアンなどの舞台版にも出演した面子ともども芸達者なところを披露する。
コナーの両親に扮したエイミー・アダムスとダニー・ピノも良いのだが、エヴァンの母親役のジュリアン・ムーアが歌が上手いのにはびっくりした。この一件を経て主人公そして登場人物たちには、ほんの少しだが世界が広がって見えることだろう。本年度のアメリカ映画を代表する秀作である。
南部の地方都市に住む高校生エヴァン・ハンセンはメンタルに問題を抱え、友達はおらず家族にも心を開けない。通っているセラピーで指導された“自分宛ての手紙”を図書館で書いていた彼は、問題児のコナーにその手紙を持ち去られる。ところが後日コナーは自ら命を絶つ。彼が握りしめていた件の手紙を見つけたコナーの両親は、エヴァンが息子の友人だと思い込む。エヴァンは彼らを苦しめたくないため、思わず“コナーとは親友同士だった”と話を合わせてしまう。彼の告白は大きな反響を呼び、学校ではコナーの死を無駄にしないためのムーブメントが巻き起こる。
いかに“成り行き上”とはいえ、ウソをついてしまう主人公には問題がある。このウソを貫徹するためには次から次とウソをつき通す必要があるが、高校生のエヴァンにとっては、それは越えられないハードルだ。だが、それにあまり違和感が無いのは、キャラクターが良く掘り下げられているからだと思う。
内向的だが何とかしてブレイクスルーを成し遂げたいエヴァンは、このチャンスを逃してはずっと閉じ籠るしかないと判断し、あえて“暴挙”に打って出る。だが、映画は主人公一人の苦悩の描写では終わらない。コナーやその家族はもちろん、自身の母親、そして勉学やスポーツに打ち込んで充実した学園生活を送っていたと思われた者たちも、内面では自分の将来や人間関係に対して大いなる屈託を抱えていたことが明らかになる。エヴァンを媒体として、その懊悩が学内はおろか世界的規模にまで露わになってゆく過程は説得力があり、十分感動的だ。
スティーヴン・チョボウスキーの演出は堅実で、ここ一番の盛り上げ方も堂に入っている。楽曲のレベルは大したもので、どのナンバーもしみじみと聴かせる(この前観た「イン・ザ・ハイツ」よりも数段上)。主役のベン・プラットは残念ながら高校生には見えないが(笑)、ケイトリン・デヴァーやアマンドラ・ステンバーグ、コルトン・ライアンなどの舞台版にも出演した面子ともども芸達者なところを披露する。
コナーの両親に扮したエイミー・アダムスとダニー・ピノも良いのだが、エヴァンの母親役のジュリアン・ムーアが歌が上手いのにはびっくりした。この一件を経て主人公そして登場人物たちには、ほんの少しだが世界が広がって見えることだろう。本年度のアメリカ映画を代表する秀作である。