(原題:NEWS OF THE WORLD )2021年2月よりNetflixで配信。「ジェイソン・ボーン」シリーズなどで知られるポール・グリーングラス監督作なので、ハードなアクションが展開するのかと予想したが、良い意味で期待を裏切られた。これは堂々とした風格のウエスタンだ。西部劇全盛時の作品群と比べても、まったく遜色がない。また、現代に通じるテイストも持ち合わせており、観て損のない佳編である。
南北戦争終結から5年、元南軍大尉のジェファソン・カイル・キッドは、各地を回って住民たちに新聞に載っている世界中のニュースを読み聞かせる仕事をしていた。ある日彼は、馬車の事故現場に一人取り残されたジョハンナという10歳の白人の少女を保護する。6年前にネイティブアメリカンに連れ去られ、そこで育てられた彼女は英語が話せない。キッドは地区の管理事務所にジョハンナを連れて行くが、担当者が戻るのはかなり先だという。そこで彼は、彼女を親族のもとへ送り届けることにする。ポーレット・ジャイルスによるベストセラー小説の映画化だ。
当然のことながら、旅する2人の行く手には難関が立ちはだかる。厳しい自然は容赦なく牙をむき、ならず者どもは次々と襲ってくる。だが、それらの描写にはスペクタクル性は希薄だ。適度な緊張感を維持しつつ、必要最小限の扱いで済ませている。元より、本作の主眼は活劇ではない。コミュニケーションとメディア・リテラシーの重要性こそが、この映画の主題だ。
キッドとジョハンナは最初は話が通じないが、互いの心情と屈託を理解するにつれて徐々に距離を詰めていく。反面、血が繋がっているはずのジョハンナの親戚は、彼女を人間として見てはいない。キッドが聴衆に披露するネタは、皆が興味を持ち前向きになれるようなものばかりだ。いたずらに扇情的な記事は絶対に選ばない。いわば彼は、この時代の貴重なインフルエンサーだ。吟味された題材を効果的に伝える。それは、怪しげな情報が野放図に飛び交うばかりの現在に対するアンチテーゼとも言える。
グリーングラスの泰然自若とした演出に加え、主演のトム・ハンクスがイイ味を出している。彼もそれなりに年を取り、ますます円熟味を増しているようだ。ジョハンナに扮するドイツの子役ヘレナ・ゼンゲルも実に達者。ダリウス・ウォルスキーのカメラによる美しい映像(映画館のスクリーンで観たかった)。ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽も万全。感動的な幕切れも含めて、鑑賞後の気分は上々である。