(英題:NIGHT IN PARADISE )2021年4月よりNetflixより配信。なかなか良く出来た韓国製ノワール映画だ。後半の作劇にもうひとつ工夫が必要だったとは思うが、それでも観る者に最後まで緊張感を持たせるパワーは大したものである。非コンペティション扱いながら第77回ヴェネツィア国際映画祭に出品され、好評を博したというのも納得だ。
パク・テグはソウルの暗黒街で名の知れた凄腕だった。ところがある時、組織抗争の巻き添えになり彼の姉と幼い姪が命を落としてしまう。怒ったテグは、手を下したと思われる敵対組織の幹部を襲撃する。彼のボスであるヤン社長は、騒ぎが大きくなることを恐れてテグにしばらく済州島に身を隠すように要請する。
そこには心に傷を抱え、しかも薬物中毒で余命幾ばくも無い若い女ジェヨンが彼を待っていた。反発しながらも距離を縮めていく2人だったが、一方でヤン社長と対立組織のマ理事との間で“手打ち”が成立。テグを抹殺することで一件落着にすることを決めた両組織の構成員たちが、済州島に大挙して押しかけてくる。
まず、キャラクターの造型が素晴らしい。義理と人情に縛られながらも自身の筋を通そうとして、かえって窮地に追いやられるテグの佇まいは、人生全て投げてしまったような潔さと美学に溢れていて圧巻だ。演じるオム・テグの表情と仕草はいちいちサマになり、セリフも決まっている。残り少ない命を完全燃焼させることに何の躊躇も無いジェヨンの、強固な意志と鋭い眼差しにもシビれる。扮するチョン・ヨビンは化粧っ気のない顔と蓮っ葉な言動に徹しているが、これが実に硬質な魅力を発散され画面から目が離せない。
パク・フンジョンの演出は切れ味が鋭く、特に活劇シーンのヴォルテージの高さには感服するしかない。また、キム・ヨンホのカメラによる済州島の風景は清涼で、これをチェックするだけで得した気分になる。
なお、北野武作品との共通性はすでに指摘されており、特に「ソナチネ」(93年)と比較されるのも頷ける。しかし、あくまでも冷たく乾いた世界を創出する北野映画に対し、この「楽園の夜」は画面はクールながら登場人物たちの情念は実に熱い。韓国映画の特質を見るような気がした。主演2人以外のキャスト、チャ・スンウォンやイ・ギヨン、パク・ホサン、イ・ムンシクといった面々も、それぞれ持ち味を十分に出している。