食い足りない箇所はけっこうあるが、最後まで飽きずに観ることが出来た。これはひとえに(文字通りの)キャラクターの造型に尽きる。登場人物に存在感を持たせれば、作劇面での瑕疵はある程度は相殺するのは可能だ。さらに、ケレン味の強いネタを扱っているわりには演出は正攻法である点も申し分ない。
有名漫画家のアシスタントである山城圭吾は、独立して連載を持つことを目指していたが、出版社に原稿を持ち込んでも良い返事をもらえない。才能の限界を感じていた折、山城は背景画のスケッチに出掛けた住宅地で一家惨殺事件とその犯人を目撃してしまう。警察の取り調べに“犯人の顔は見ていない”と嘘をついた彼だが、一方でその犯人をモデルにしたサスペンス漫画を描き始め、それが大ヒットする。
そんな中、漫画の内容とそっくりな殺人事件が次々と発生。そして真犯人の両角は山城に接触し、一連の事件は2人の“共作”であると嘯くのであった。小説やコミックの映画化ではなく、長崎尚志による脚本はオリジナルだ。
犯人が使用する凶器はナイフだが、それ一本で一度に多人数を片付けるのはどう考えても無理だ。しかも、両角は死体をすべて移動させるというハードルの高い重労働を自身に課している。そもそも、犯人の背景がハッキリと描かれていない。山城の父親は再婚しており、母親と妹とは血が繋がっていない。ところが、この家族は何の躊躇もなく危険な“おとり捜査”に協力する。そしてクライマックスの山城の言動も納得出来るものではない。
しかしながら、監督の永井聡はテンポ良く各モチーフを処理してゆく。サスペンスの盛り上げ方も悪くない。そして山城と両角の描写は出色で、付かず離れずの丁々発止のやり取りは、けっこう見せる。さらに事件を追う刑事と、山城の妻の造型も浮ついたものにはなっていない。
山城に扮する菅田将暉は真面目さとニューロティックなテイストを併せ持った人物像をうまく表現していた。両角役のFukase(映画初出演)はちょっと童顔過ぎるが(笑)、不気味さは出ていた。高畑充希に中村獅童、小栗旬といった他のキャストも十分に機能している。また、直接的な残虐描写は抑え気味なので、幅広い客層にアピールしそうだ。