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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ミセス・ノイズィ」

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 幾分食い足りない部分もあるのだが、最後まで楽しんで観ることが出来た。また、オリジナル脚本というのがポイントが高い。最近は名の知れた漫画や小説の映画化ではない場合は企画が通りにくい傾向があるというが、よく練られたシナリオであるならば作品として結実するという好例になると思われる。キャストの頑張りも印象的だ。

 かつて新人文学賞を獲得したことがある作家の吉岡真紀は、子供が出来てからはスランプに悩まされていた。気分を一新するために賃貸マンションに引っ越すのだが、執筆に取り掛かろうとすると思いがけない騒音が飛び込んでくる。隣の住人である若田美和子が、朝早くからベランダに干した布団を力一杯叩いているのだ。



 さらに、美和子は真紀の幼い娘の菜子を勝手に連れ回し、果ては真紀に許可を取らず菜子を自分の部屋で遊ばせたりする。情緒不安定になった真紀は夫との関係も上手くいかなくなり、ついに美和子の“狼藉”を小説のネタにすることで反撃に出る。だが、隣同士で争う様子がSNSに動画でアップされたことにより、地域やマスコミを巻き込んだ大騒動へと発展していく。

 最初は迷惑な隣人が引き起こすサスペンス仕立てかと思わせるが、途中から映画の視点が美和子の側に移動することにより、先の読めない展開に突入する。何と、美和子には布団を叩かなければならない“事情”があったのだ。隣同士の行き違いから事態が紛糾し、やがて取り返しのつかないトラブルが頻発する様子は、まさにスペクタクルだ(笑)。

 要するにこれは、想像力とコミュニケーションの不全に尽きる。少しでも相手の立場でモノを考えれば違った視界が開けてくるのだが、多くの者はそれをしない。隣同士でもそうなのだから、部外者のマスコミやネット住民にとって、当事者の立場なんかどうでも良いのだ。さらにこの“事件”の原因を突き詰めれば、容易に保育所に子供を預けられない社会的状況が関与している。社会システムの問題を放置してそれぞれの自己責任に丸投げしようという、ドライな世相を風刺しているのも納得出来る。

 実を言えば、後半の筋書きは多分に御都合主義的だ。もしもこれが現実ならば、さらに酷いことになっている。ただし、娯楽映画である以上、この決着の付け方は申し分ないと思う。やっぱり、少しは感銘を受けて劇場を後にしたいものだ。

 天野千尋の演出はパワフルで、淀みがない。主演の篠原ゆき子と大高洋子のパフォーマンスは素晴らしく、思わず感情移入してしまう。長尾卓磨に宮崎太一、洞口依子、風祭ゆきといった脇の面子や子役の新津ちせも万全で、観て損の無い快作だ。

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