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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「夜叉」

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 85年東宝作品。製作当初は“高倉健の俳優生活の集大成”というキャッチフレーズが付いていたらしいが、なるほど映画の佇まいには惹かれるものがある。しかし、内実は全然大したことが無い。何が良くないかというと、まず脚本だ。そして次に非力な演出。キャストはけっこう豪華で、皆頑張っているのに惜しい話である。

 若狭湾に面した小さな港町で漁師として働く北原修治が、この地で暮らし始めて15年になる。妻の冬子と3人の子供、そして冬子の母うめとの静かな生活だ。あるとき、大阪ミナミから螢子という子連れの女が流れてきて飲み屋を開く。螢子の色っぽさもあり、店は繁盛するようになる。数ヶ月後、螢子を訪ねて矢島という男がやってくる。矢島はヤクザで螢子のヒモだった。



 矢島は漁師たちに覚醒剤を売りつけるなど、早速あくどいことをやり始める。しかし矢島は所属する組に払う上納金を滞納したため、追っ手に捕まりミナミに連れ去られる。螢子は修治に矢島を助けて欲しいと懇願する。実は修治は、かつてミナミで“夜叉”と呼ばれ恐れられた凄腕の極道者だった。修治は大阪に舞い戻り、矢島を拉致した組織に対して殴り込みを敢行する。

 主人公のキャラクター設定が曖昧だ。まずは螢子と妻という2人の女の間で揺れ動く修治の心理を描出しないと、後半の彼の言動が説明出来ないはずだが、それが成されていない。いくら高倉健が“不器用”だといっても(笑)、態度で示す手段があったと思うのだが、演出にはそのあたりが網羅されていない。そもそも、どうして修治が螢子に惚れたのか分からないし、わざわざ矢島みたいなヒモ野郎を救ってやる義理は無いはずだ。

 修治だけではなく、他の登場人物たちも“挙動不審”で、主人公をミナミでの刃傷沙汰に駆り立てるためだけの“手駒”にすぎないと思えてくる。かと思えば、都会へ出て行く少年に主人公の若き日をオーバーラップさせたり、キャバレーでホステスと踊ったりと、無駄なモチーフも目立つ。かつて高倉が演じた、人情に厚く正義のためならば危険も顧みないという共感度の高いキャラクターたちとは大違いの、場当たり的に行動する卑俗な人物にしか見えないのは辛い。

 降旗康男の演出は詰め込みすぎたエピソードを片付けるのに精一杯で、キレもコクもない。螢子に扮する田中裕子をはじめ、いしだあゆみに乙羽信子、ビートたけし、田中邦衛、小林稔侍、大滝秀治、寺田農と配役は贅沢だが、機能していない。ただし、木村大作のカメラがとらえた日本海の荒涼たる風光と、佐藤允彦とトゥーツ・シールマンスの音楽、そしてナンシー・ウィルソンの主題歌は見事だ。その意味で、観る価値無しとまでは言えない。

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