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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「この世界に残されて」

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 (原題:AKIK MARADTAK )第二次大戦中のナチスドイツによるユダヤ人迫害を描く映画は数え切れないほどあるが、この作品は新たな視点のアプローチが印象的だ。戦争の悲劇を取り上げる際に、声高にシビアな歴史の事実を糾弾することだけが方法論ではない。こうした静かなタッチが、より主題を引き立たせることがあるのだ。

 1948年のハンガリー。戦時中の苦難を何とか生き延びた16歳のクララだったが、両親と幼い妹を失い、今は大叔母の元に身を寄せている。だが、辛い経験をしたクララは情緒が安定せず、学校では問題児扱いされていた。ある時、彼女は中年の産婦人科医のアルドに出会い、自分と通じるものを感じる。アルドもやはり、大戦中に家族を失って一人で暮らしているのだった。

 やがてクララは父を慕うように彼に懐き、アルドも彼女を保護することで人生を取り戻そうとする。しかし、ソ連がハンガリーで実権を握って世相が不安定になり、周囲の者たちも2人に対していらぬ詮索をするようになる。そのためアルドはある決心をするのだった。ジュジャ・F・バールコニによる小説の映画化だ。

 中年男と女子高生が同居することで何やらセクシャルな展開が始まることが予想されるが、実際そんなものは無いし、そういった筋書きは不適当であることはスグに分かる。2人は心の奥底で共感し合っている。こういう題材を取り上げた映画にありがちの、悲惨なシーンや観ていて辛くなるような展開は無い。だからソフトタッチの作品だと思ったら大間違いだ。

 絶対的な悲劇は、この映画が始まる前にすでに“完結”していたのである。悲劇のあとの風景を定点観測しているのが、本作の特徴である。登場人物たちは戦後それぞれの道を歩み、ささやかな幸せを掴むケースもある。しかし、本来そこにいて彼らと哀歓を共にしているはずの人々はもういない。その圧倒的な不在が、観る者に大きく迫ってくる。これこそが、戦争の不条理そのものなのだ。

 1時間半という短めの尺ながら、監督のバルナバーシュ・トートは高密度のドラマを構築しており、実に見応えがある。アルド役のカーロイ・ハイデュク、クララに扮したアビゲール・セーケ(凄く可愛い ^^;)、共に好演。ガーボル・マロシのカメラによる、荒涼とした戦後すぐの風景もインパクトが強い。

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