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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」

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 (原題:EDMOND)これは面白い。芸術に携わる者たちの矜持と、成果物としての演劇の素晴らしさを十分に描き出し、最後まで飽きさせない。それでいて歴史物としての風格があり、優れたコメディでもある。セザール賞では衣裳デザイン賞と美術賞の候補になっているが、作品賞や監督賞を獲得してもおかしくないほどの出来栄えだ。

 1897年のパリ。詩人で劇作家のエドモン・ロスタンは、かつてヒット作を手掛けていたが、次第にその古風なスタイルが飽きられ、約2年も筆が進まない状態に陥っていた。そんな中、大物俳優コンスタン・コクランの主演舞台を手がけるチャンスが舞い込む。しかし、決まっているのは17世紀に活躍した剣術家で作家のシラノ・ド・ベルジュラックを主人公にした劇ということだけで、内容は未定だった。



 ある日、親友のレオの代わりに彼が愛するジャンヌに宛ててラブレターを書いたことをきっかけに、エドモンは戯曲の筋書きを思いつく。やがて、実は借金だらけのコンスタンをはじめ、クセの強い俳優やスタッフたちがポルト・サン=マルタン座に集合し、この劇を完成させるために奮闘することになる。ベル・エポック時代を代表する演劇「シラノ・ド・ベルジュラック」の誕生秘話を描く、実録風ドラマだ。

 とにかく、各キャラクターが“立って”いることに感心する。無駄なキャラクターが一人も存在せず、それぞれのポジションに応じた見せ場が用意されているという、巧妙なシナリオが光っている。そして、それに応えるキャストの力量も申し分ない。主人公たちを次々と襲うトラブル。債権者に追われる者もいれば、複雑な色恋沙汰に巻き込まれて芝居どころではない者、演技経験ゼロでありながら大切な役を振られた者など、訳ありの面々が顔を揃える中、劇場の使用中止命令まで出てしまう。

 それでもこの傑作を世に出すのだという一同の心意気が、事態を少しずつ好転させていく。そのプロセスはまさにスペクタクル的だ。そして、劇に携わる者たちの人生が舞台上の登場人物とシンクロし、クライマックスは演劇の枠を逸脱するという野心的な試みも披露する。

 監督のアレクシス・ミシャリクは原案と脚本を手掛けているが、見事な仕事ぶりだ。また、エンド・クレジットの処理にも泣けてきた。主役のトマ・ソリベレを筆頭に、オリビエ・グルメ、マティルド・セニエ、トム・レーブ、リュシー・ブジュナー、アリス・ド・ランクザンなど、キャストは芸達者揃い。ジョバンニ・フィオール・コルテラッチの撮影とロマン・トルイエの音楽も言うことなしだ。

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