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「パピチャ 未来へのランウェイ」

 (原題:PAPICHA )これは厳しい映画だ。第72回カンヌ国際映画祭における“ある視点部門”に出品されて高く評価されるものの、本国のアルジェリアでは上映が許されていない。この世界には、いまだに自己主張や自由な表現が許されない地域があるのだ。この実状の容赦ない告発に留まらず、逆境にたくましく立ち向かってゆく者たちの勇気を活写し、見応えのある作品に仕上がっている。

 97年のアルジェ。女子大の寮で暮らすネジャマはファッションデザイナーを夢見ていたが、実際の活動はせいぜいナイトクラブで自作のドレスを販売する程度だ。そこで彼女は、寮内でファッションショーを開くことを計画する。仲間を集め、衣裳を作り、本番に向けて着実に準備を進め、堅物の寮長も何とか口説き落とし、ネジャマたちは“その日”を待つだけの状態だ。折しもアルジェリアではイスラム原理主義の台頭により、アルジェの町では女性にヒジャブの着用を強要する風潮が強まっていた。90年代のアルジェリア内戦を背景に、実話を基に仕上げられた作品だ。

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 冒頭、ネジャマと友人のワシラが寮をバタバタと抜け出してナイトクラブに向かうシーンは、いかにも明るいガールズムービー風なのだが、乗っていたタクシーが厳しい検問に遭う場面から映画はシビアな状況を突きつける。主人公たちは年齢相応の服装をしているのだが、イスラム自警団ともいえる連中がヒジャブを身に付けない彼女らに圧力を掛ける。

 ついには寮内や学内にも侵入し、狼藉の限りを尽くす。その行動様式を見ていると、単一の価値観に身を委ねた精神的な退行と荒廃、及び同時に当人たちが覚えているだろう(後ろ向きの)陶酔感といったものが見え隠れし、慄然とする。

 しかし、ネジャマは負けない。原理主義者らの執拗な攻撃にもめげず、目的に向かって失踪する。劇中で、ネジャマの交際相手が“フランスに亡命しよう”と持ちかける。やっとの思いでフランスから独立したアルジェリアの住民が、かつての宗主国に帰属しようとする皮肉。だが、ネジャマは生まれ育ったこの国を見捨てられない。その決意は見上げたものだ。

 これが長編映画監督デビュー作となるムニア・メドゥールの仕事ぶりはパワフルで、弛緩した部分が無い。主演のリナ・クードリの存在感は素晴らしく、逆境に立ち向かう鋭い視線には圧倒される。シリン・ブティラやアミラ・イルダ・ドゥアウダ、ナザーラ・ドゥモンディといった他の面子は馴染みは無いが、皆良い演技をしている。

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