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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「TENET テネット」

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 (原題:TENET )クリストファー・ノーラン監督作としては、前回の「ダンケルク」(2017年)に続いての失敗作だ。とにかく“何か思い切ったことをしたい”との気持ちだけが空回りし、肝心の作劇が疎かになり娯楽映画としての体裁を欠いている。作者としては3時間以上の大作に仕上げる予定が興行面での都合により2時間半に削られたらしいが、それを勘案しても評価出来る水準には達していない。

 CIAの特殊部隊に属する“名も無き男”は、ウクライナのコンサートホールで起きたテロ事件を鎮圧すべく現地に向かう。だが、逆にテロリストに捕らえられ尋問を受ける。機密情報を敵に漏らす前に自決しようと、彼は毒薬の入ったカプセルを口にするが実はカプセルの中身は鎮静剤だった。



 船の中で目を覚ました彼は、ある男から“第三次世界大戦を阻止するため、未来からの敵と戦え”という指令を受ける。彼はある研究所で、未来人が作ったらしい時間逆行装置と“時間を逆行する弾丸”の存在を知ると共に、未来の敵を手引きしているらしいロシアの武器商人セイターに接触するため、相棒となるニールと行動を開始する。

 とにかく、劇中にはワケの分からないことが山積している。未来で起こる第三次世界大戦とはいったい何なのか、どうしてその解決を主人公は担わされたのか、なぜセイターは未来勢力の“代理店”みたいなことをしているのか、スタルスク12だのアルゴリズムだのいったモチーフの実体は何なのか等、それらに対する平易な説明は無い。

 しかし問題は“分からないことが多い”ということではないのだ。“分からないことを、(観る側が)分かろうとは思わないこと”こそが、本作の最大の瑕疵である。もちろん、この曖昧模糊とした映画の内実を何とか(こじつけを含めて)解き明かそうという向きもあるだろう。しかし、少なくとも私はそんな気分には全然なれない。なぜなら、映画全体に覇気というか切迫したものが一切感じられないからだ。

 魅力の無い登場人物たちに、イマジネーションに乏しい映像構成、特にアクションシーンの低調ぶりは目に余る。終盤の戦闘場面など、正常な時制と逆行した時間の中で活動する者たちが入り交じってバタバタしているだけで、観ていて鬱陶しい。最後はオチをつけたつもりだろうが、カタルシスは無い。

 主演のジョン・デイヴィッド・ワシントンは、見た目や演技での存在感に欠ける(父親のデンゼルの足元にも及ばない)。ロバート・パティンソンやケネス・ブラナー、アーロン・テイラー=ジョンソンといった面子も精彩がない。ただ、ヒロイン役のエリザベス・デビッキには驚いた。美人で色気があるということより、その190cmという身長には目を剥くしかない。この体格を活かして、今後も時代劇や歴史大作にどんどん出て欲しいものだ。

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