(原題:COLD WAR)2018年作品。世評は高いが、封切り時には見逃してしまった映画である。今回なぜか再上映されたので、劇場に足を運んでみた。感想だが、あまり芳しいものではない。何より、登場人物の内面が描けていない。だから、主人公たちの言動には説得力が無い。88分という短い尺だが、必要以上に長く感じられた。
第二次世界大戦直後のポーランド。ズーラという若い女が州が後援する音楽舞踊団の公募に募集する。教官のヴィクトルは一目で彼女を気に入り、ただちに入団を許可し、同時に2人の交際がスタート。才能があるズーラはほどなくチームのセンターに上り詰めるが、実は彼女は父親を殺害したために保護観察中の身であった。ヴィクトルはそんな彼女のしがらみを断ち切るため、舞踏団の東ベルリン公演の際にズーラと共に西に亡命する計画を立てるが、落ち合う場所にズーラは現れず、やむなくヴィクトルは一人で国境を越える。
数年後、パリのジャズクラブで働いていたヴィクトルは、ズーラと再会する。両者には既に別のパートナーがいたが、恋愛感情が消えたわけではなかった。その翌年、ヴィクトルはズーラに会うためにユーゴスラビアでの舞踏団の公演を観に行く。第71回カンヌ国際映画祭で、パヴェル・パヴリコフスキーが監督賞を獲得したラブストーリーだ。
そもそも、ズーラとヴィクトルが本当に恋愛関係にあったのかどうか分からない。ズーラが東ベルリンで亡命するヴィクトルと行動を共にしなかった理由は“自分に自信がなかったから”らしいが、そんな軽々しい言い訳を口にする彼女を、何とヴィクトルも笑って許してしまう。さらにこの2人は会うたびにそれぞれ交際相手がいて、ウヤムヤのまま何となく別れてしまうというパターンを繰り返す。挙句の果てに取って付けたようなラストが待っているという、まさに脱力してしまうような筋書きだ。
だいたい、冷戦時代に東側と西側を(プライベートな用事で)頻繁に往復出来るものなのだろうか。劇中、ヴィクトルがポーランドの当局側に拘束されてどこかに移送されるシーンがある。これは絶対に悲惨な目に遭うと思ったら、次のシークエンスでは何事もなかったかのようにシャバで生活しているというくだりには、呆れ果ててしまった。
パヴリコフスキーの演出はシークエンスごとに大幅に時制を進ませて、その間の出来事を観客に想像させるという作戦を取っているようだが、説明が不足しているため空振りに終わっている。主役のヨアンナ・クーリグとトマシュ・コットは好演。舞踊団のパフォーマンスやズーラの歌唱シーンは本当に素晴らしい。だが、肝心のドラマが不調であるため、何やら浮いて見えてしまう。全編モノクロで撮られているが、それほど効果が上がっていないのも悩ましいところだ。