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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「愛なき森で叫べ」

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 2019年10月よりNetflixで配信された園子温監督作品。椎名桔平扮する主人公のド変態ぶりが光る(笑)。同じ園作品としては、2007年製作の「エクステ」における大杉漣のパフォーマンスに匹敵するほどの怪演だ。しかし、それ以外はどうにもパッとしない。率直に言ってしまえば、これは過去の作品で扱ったモチーフの“二次使用”でしかない。もっと斬新なネタを期待したが、それは叶わなかったようだ。

 1995年、上京したばかりで所在なく路上でギターを爪弾いていた青年シンは、ふとしたことから映画作家志望のジェイとフカミと知り合う。意気投合した彼らは自主映画を作ることになり、仲間の妙子を誘うが、妙子から彼女の友人である美津子が村田丈という怪しい男と付き合っていることを聞き出す。

 村田は見た目がいかにも胡散臭い野郎だが、巧みな話術と大胆な行動で相手を丸め込むという特殊な才能を持っていた。ジェイ達は彼に興味を抱き、村田をモデルに映画を撮ろうとする。一方そのころ、何者かが警官から奪った拳銃で次々と殺人を犯すという、凶悪事件が発生していた。

 実際の事件(今回は2002年に起こった北九州監禁殺人事件)を題材にしているが、これは園作品としては3回目で、目新しさは無い。中盤以降には派手なスプラッタ場面が出てくるが、インパクトにおいて「冷たい熱帯魚」(2010年)にはとても及ばない。さらに残虐描写の段取りも「冷たい熱帯魚」の二番煎じだ。

 映画を撮ろうとする若い連中が出てくるのは「地獄でなぜ悪い」(2013年)で一度使った素材。しかも、扱いは数段ヴォルテージが低い。出てくる女達は皆二面性を持っているが、これは「恋の罪」(2011年)でも起用したモチーフで“何を今さら”という感じだ。もちろん、前に使った方法でも上手く料理すれば問題は無いのだが、組み立て方がチグハグでサマになっていない。

 椎名が演じる村田は確かに圧倒的に目立っているが、映画の中では浮いている。リアリティがゼロで、もちろん一連の事件の首魁になる必然性も無い。実際の事件には出てこないジェイ達映画オタクを無理矢理ドラマの中に押し込んだのも感心せず、なぜ映画なのか、それもどうして村田をモデルにした人物が主役なのか、納得出来る説明は最後まで無い。ラスト付近では一応“オチ”らしきものが付くのだが、それで何かカタルシスを得られるわけでもなく、白々とした空気が流れるのみだ。

 全編に渡って登場人物の内面描写は希薄で、マンガ的なドタバタに終始。加えて、村田以外のキャストは弱体気味だ。満島真之介や真飛聖、でんでんの演技は想定の範囲内に留まっているし、日南響子に鎌滝えり、中屋柚香といった若い女優も魅力に欠ける。以前は園監督は見どころのある若手俳優を次々と発掘して脚光を浴びたものだが、本作にはそういう長所は見当たらず寂しい限りだ。

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