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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「殺意の香り」

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 (原題:Still of the Night)83年作品。ヒッチコック的な御膳立ての中に、当時キャリアを順調に積み上げていたメリル・ストリープを投げ入れたらどうなるか・・・・というアイデアで作られた映画だと思う。ただし、言い換えれば彼女のキャラクターや演技パターンが気に入らない観客にとっては、あまり意味の無いシャシンでもある。ただし、出来自体はロバート・ベントン監督作品だけあって、水準はクリアしている。

 マンハッタンで、停められていた車の中から男の死体が発見される。被害者はオークション・ギャラリーの経営者であるジョージ・バイナムだった。一方、離婚したばかりの精神分析医サム・ライスは、終始怯えたような表情を見せる女性の訪問を受ける。彼女はバイナムの助手であったブルック・レイノルズだ。実はバイナムはサムの患者であり、ブルックはバイナムがアパートに置き忘れた腕時計を彼の妻に返してほしいと頼むのだった。そんな時、殺人課のヴィトゥッキ刑事がやって来て、バイナムの個人情報を明かすようにサムに要請する。一度は患者の秘密は公開できないと断わるサムだが、彼は独自にバイナムの身辺を調査し始める。

 精神科医が事件の背景を探っていくうちに容疑者に惹かれていくという設定は、言うまでもなく「白い恐怖」(1945年)からの引用だ。そしてオークション会場で彼女の急場を凌ぐために、サムが必死になって絵を競り落とそうとするシークエンスは「北北西に進路を取れ」(1959年)の一場面と似ている。そのように手練れの映画ファンがニヤリとするようなシチュエーションを積み上げれば、多少のプロットの不明確さも糊塗できるというのが作者の魂胆かもしれないが、それは成功している。

 実際、鑑賞後にはストーリー自体よりも個別のモチーフだけが印象に残る始末なのだ(笑)。特に作者のM・ストリープに対する“執着”はただ事ではなく、彼女が初めてスクリーン上に姿を現すシーンから、粘りつくようなカメラワークが全開。そして震える指で煙草を取り出すと2,3服してもみ消してしまうというショットでは、彼女の“神経症的演技もお手のもの”という得意げなポーズが画面いっぱい展開して、まさに苦笑するしかない。

 ここではヒッチコック的な道具立てで彼女を機能させるという当初のたくらみが、いつの間にかヒッチコックのスタイルが彼女を引き立てる要素みたいな構図に移行しており、まったくもってこの頃のストリープの存在感というのは大したものだと感心するしかない。サム役のロイ・シャイダーやジェシカ・タンディ、サラ・ボッツフォードといった面子が影が薄いのも仕方がないだろう。なお、撮影はネストール・アルメンドロスで、さすがの安定感を見せる。

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