いかにも英勉監督作品らしい狂騒的なライトコメディだが、その中に無視できない重要なモチーフが織り込まれており、ドラマに厚みを持たせている。もっとも、作者はそれに気付いているかどうかは定かではない(笑)。とにかく、やたら大袈裟なこの監督の作風に一度慣れてしまえば(慣れない場合はお気の毒さまだ ^^;)、あとはラストまで引っ張ってくれる。
2003年、大手ゼネコンの前田建設の広報グループ長である浅川は、ある日部下に対してとんでもないことを言い出す。何と、TVアニメ「マジンガーZ」に出てくる地下格納庫を建設してほしいとの依頼を、光子力研究所の所長である弓教授から受けたというのだ。もちろん、実際に作るわけではないが、フィクション世界の構造物を現在の技術で建設したらどうなるかを検証する、企業ホームページ上の企画だ。
言い換えれば、実際の施工以外のことを全てやるということである。設計から資材調達計画、綿密な工程積み上げを経て、見積書提出までを“本気で”おこなう。若手社員の土井航はこの話に面食らうが、関係各署にリサーチする間に、次第にこの大きな架空プロジェクトにのめり込んでゆく。実在する企業のブログの映画化だ。
小木博明扮するグループ長の大仰な言動にはドン引きする面もあるが、土井をはじめとするスタッフの奮闘には見ていて盛り上がる。ゼネコンにおける広報担当なんてのは、設計施工や営業などのメインのセクションに比べると“窓際”扱いされても仕方がない。実際、土井も何となく大学を出て何となく入社し、何となく日々の定型業務をこなしていただけ。他のメンバーもヨソの部署から飛ばされた風采の上がらない面子ばかり。
そんな奴らが、目的意識に目覚めて奮闘する。いわばスポ根もののルーティンを踏襲しているわけで、違和感は覚えない。本作のハイライトは、各メンバーが工程のエキスパート(他企業も含む)と知り合うことにより、仕事の重要性を再認識するところだ。関係企業の協力による工程や成果物の紹介は、登場人物の内面を変化させるに十分な説得力を持つ。
そして冒頭に述べた“重要なモチーフ”とは、現在この企業ノウハウや設備が活かされていないことを暗示していることである。本作は2003年の話だが、それから“コンクリートから人へ”などという内容空疎なスローガンを掲げた政党が政権を取って、その後の政権も緊縮財政策で公共投資を縮小させた挙句、建設業は左前になってしまった。本作はそのような構図を暗示させていたたまれない気持ちになる。何とかしてこの緊縮トレンドを抜け出してほしいものだ。
土井を演じる高杉真宙をはじめ、岸井ゆきの、鶴見辰吾、六角精児、町田啓太、上地雄輔と、キャストは皆頑張っている。ゲストとして永井豪が顔を出しているのも嬉しい。そしてラストの処理は(文字通りマンガ的だが)けっこうウケた。