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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「あなたがいたら 少女リンダ」

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 (原題:WISH YOU WERE HERE)87年作品。軽快なタッチの小品だが、絵作りのクォリティもドラマの密度も高く、見応えがある。時代背景の描写は的確で、その中でのヒロイン像が上手く機能している。題材の普遍性もあって、鑑賞後の印象はとても良い。

 1951年のイギリス。リンダは海辺の町に住む16歳の女子だ。中学卒業後に美容師の見習いをしていたが、ある日気にくわないことがありモデルの髪をくしゃくしゃにしてしまいクビになる。次にバス会社に勤め、ここも辞めてレストランのウェイトレスになるといった具合に仕事を転々とする。そんな奔放な彼女は地元の男子に人気があり、何人かと付き合ってみるがどれも物足りない。



 そんな彼女に目をとめていたのが、父親の友人で映画館の映写技師をしているエリックという中年男だ。根の暗そうな彼に最初は敬遠していたリンダだが、懲りずに言い寄ってくるエリックに次第に気を許してしまい、ついには家出して彼と一緒に住むようになる。やがて彼女は妊娠し、周囲から“堕ろせ!”の大合唱がわき上がるものの、リンダは自分なりの決断を下す。

 とにかく、リンダの造型が印象的だ。彼女の家庭環境は決して恵まれたものではなく、かといって進学する余裕も無い。この年代にはよくあることだが、彼女はどこかへ行ってしまいたいのだ。関わった男どもはいずれもロクでなしだが、それでもリンダは決してヤケにらずに、自分なりのポリシーを持ち続けているあたりがアッパレだ。

 そして、自分の意思を貫けば貫くほど、みるみるうちに魅力的になっていくのも見逃せない。これが現代の話だと主人公はネットで“家出情報”(?)を仕入れてとっとと実行に移すのだろうが(笑)、50年代の田舎町という保守的な地盤で味方もおらず、頼れるのは自分だけという境遇にもめげずに頑張るヒロインは、思わず応援したくなる。

 監督と脚本はデイヴィッド・リーランド。ニール・ジョーダン監督の「モナリザ」(86年)のシナリオを手掛けた人だが、これが監督第一作というのが驚きで、カッチリとした隙の無い作劇を見せる。主役のエミリー・ロイドは快演。闊達なティーンエイジャーを嫌味無く再現している。トム・ベルやジェフリー・ハッチングス、スーザン・スキッパーといった脇の面子も良い。また、イアン・ウィルソンのカメラがとらえた、海辺の町の透明感あふれる佇まいも魅力がある。

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