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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「イエスタデイ」

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 (原題:YESTERDAY )突っ込みどころが少なからずあり、本来ならば評価しないシャシンなのだが、全編に網羅されているビートルズのナンバーと、それらが流れるタイミングの巧みさに、すっかり楽しんでしまったというのが本音だ。ダニー・ボイル監督作としても、これだけ音楽の使い方が上手くいっているのは「トレインスポッティング」(96年)以来だろう。

 イギリスの海沿いの小さな町に住むジャックは、売れないシンガーソングライター。幼馴染の中学校教師エリーがマネージャー役を買って出てライブをセッティングしてくれるが、いつも会場は閑古鳥が鳴いている。ある日、世界中が瞬間的に停電状態になる。ジャックはそのおかげで交通事故に遭い、気を失ったまま病院に担ぎ込まれるが、彼が目を覚ますとそこは“ザ・ビートルズが存在しない世界”だった。



 ジャックが試しにビートルズの曲を自作のナンバーと称して次々に披露すると、彼はたちまち世の注目を浴びる。ついにはエド・シーランが共演をオファー。メジャー・レーベルとの契約も実現する。だが、高まる名声とは裏腹に、ジャックは図らずも盗作をおこなったことを後悔し、リリーとの仲もおかしくなってくる。

 ビートルズがいなければ、エド・シーランをはじめ大多数の有名ミュージシャンが世に出ていないはずだ。だからジャックが入り込んだ世界には“ビートルズに代わる何か”が存在しなければならないが、それに関して映画は言及していない。せいぜい“ローリング・ストーンズはいるが、オアシスはいない”という一節でお茶を濁すのみ。

 劇中にはジャックと同様に“元の世界”から来た者が登場するが、彼らが何かアクションを起こすわけでもない。終盤近くのジャックの行動はヘタすれば訴訟ものだが、軽くスルーしてしまう。そもそも、風采の上がらないジャックが、エリーみたいなイケてる女子と付き合っていること自体、違和感がある(笑)。

 しかし、ビートルズの代表作が次々と演奏され、人々が驚愕と熱狂と共に受け入れる様子が映し出されると、多少の欠点など吹き飛んでしまうのだ。私はビートルズ世代ではないのだが、楽曲の良さに思わず酔いしれてしまった。たぶん、ビートルズのナンバーを全く知らない者が観ても、十分に楽しめるだろう。そしてビートルズゆかりの“あの人”の登場には、感動すら覚えてしまった。

 主演のヒメーシュ・パテルとリリー・ジェームズは好調。敵役のケイト・マッキノンも憎々しい快演だ。そしてエド・シーランが本人役で出てきて、大いに存在感を発揮しているのは嬉しくなる。同じ音楽ネタを扱った映画としては「ボヘミアン・ラプソディ」に比べれば話題になっていないが、個人的にはこちらの方が好きである。

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