(英題:OTHER MAN'S WIFE)アジアフォーカス福岡国際映画祭2019出品作品。本作で描かれている封建的な地域性は世界のあちこちで現在も存在していることは分かるが、産業と情報のグローバル化はその中で暮らす人々の生活を悩み多きものにしている。そんな遣り切れなさと諦観が横溢し、何とも言えない気持ちになる映画だ。
ジャワ島とマカッサル海峡の間に位置するカンゲアン諸島のひとつに住む高校生のヒロインは、たった一人の理解者だった母を亡くし、鬱屈した日々を送っていた。ある時、父親は彼女を知り合いの農家の息子と結婚させることを決める。学校も辞めさせられた彼女は、結婚式の当日まで相手の顔を知らず、結婚してからは当たり前のように家事と農作業を押し付けられる。
だが、夫は農家を継ぐ気はまったくない。ある日彼は家出してマレーシアに働きに出てしまう。残された彼女は正式な離縁も出来ず、義父の世話を黙々とこなす毎日だ。そんな彼女も、農村に出入りする業者の若者に恋心を抱くようになる。彼は彼女に一緒に村を出ようと持ちかける。
この土地では“女性は、この世界の支配者である男たちの所有物に過ぎない”という掟がある。その地が経済的に成り立っていればその掟も存続していたはずだが、隣国マレーシアに移住すればより良い暮らしが実現する(かもしれない)という情報だけは、彼女及び周囲の人々の耳に入ってくる。
村の外には広い世界(同時に、弱肉強食的でもある)が広がっていることを認識しながら、地元のしきたりに絡め取られていくしかない者達の姿は痛切だ。ヒロインに出来ることは、ヤシの枝を使った細工を学校の生徒に教えることぐらい。しかし、それも義父をはじめ大人達はいい顔はしない。そしてラストの扱いは、観ていて身が切られるようである。
ディルマワン・ハッタの演出は淡々としていてケレン味は無いが、ゆったりと時間が流れる島の生活を十分に表現している。キャストは大半が素人同然だが、いずれも存在感がある。特筆すべきは、美しい島の風景だ。デジカム撮りなので、それほど画質の精度は高くないが、それでも田園地帯の中を水牛の群れが悠々と歩いている場面は印象に残る。