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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ブラッディ・ミルク」

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 (原題:PETIT PAYSAN)2017年製作のフランス映画だが、日本では劇場未公開。私は福岡市総合図書館にある映像ホール“シネラ”での特集上映にて鑑賞した。正直言って、あまり面白くもおかしくもない映画だ。しかし、主演男優の存在感は最後まで観客を惹き付けるには十分すぎる。その意味では観て損は無い。

 フランス北部の農村で酪農業を営むピエールは35歳ながら、未だ独身。農場と牛を両親から受け継ぎ、牛の世話と搾乳に追われる日々だ。隣国ベルギーでは牛の難病が蔓延し、大量の殺処分が発生していた。やがてその被害はフランスにも及ぶ。ある日ピエールは飼っている一頭の牛が感染していることに気付く。誰にも知られずに“処分”したものの、被害は他の牛にも広がってしまう。獣医である妹や当局側は疑い始めるが、ピエールは後には引けず、隠蔽工作にひた走る。



 物語は一直線で、捻りは無い。疫病の正体や感染経路は、最後まで明かされない。事態は何も変わらず、映画は終盤を迎える。また、この病気には人間も罹患するの何のというモチーフは中途半端に放置されている。

 しかしながら、主人公の造型は興味深い。仕事熱心で人望もあるのだが、この年齢で結婚していない上に親と同居。基本的に牛飼いにしか興味が無い。そんな彼が、疫病によって自身のアイデンティティが浸食されてゆく危機に陥る。必死になって食い止めようとするのだが、好転する兆しは見られない。

 この、蟻地獄のように不幸な状態に陥っていく男をリアルに演じるのは、巷では新時代のフランスの名優と言われるスワン・アルローだ。とはいえ、私は彼のパフォーマンスに接するのは初めてなのだが、確かに優れた資質を持っていると感じる。特にニューロティックな内面の表現には卓越したものがあり、本作でセザール賞の主演男優賞を獲得しているのも十分納得できる。

 ユベール・シャルエルの演出は淡々としているが、決して弛緩していない。上映時間を90分に抑えたのもよろしい。サラ・ジロドーやブーリ・ランネール、イザベル・カンディエといった顔ぶれは地味だが、皆芸達者で安心して観ていられる。

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