石井裕也監督にとってラブコメ映画は守備範囲外であることを、如実に示した一作。とにかく、全編に漂う違和感が観る者がストーリーに入り込むことを拒絶しているかのようだ。製作側はいったいどういう基準でこの演出家を起用したのか、全く分からない。
高校生の町田一は、見た目が地味なら運動も勉強も苦手で、何も取り柄がなさそうに見える。しかし、彼は並外れた“善人”であった。困っている人がいれば、躊躇なく手を差し伸べる。そしてその強すぎる優しさが周囲の者に影響を与えてしまうが、本人はそのことを自覚している様子は無い。そんな彼の前に現れたのが、長らく学校を休んでいた猪原奈々だった。町田一は彼女を一目見るなり、今まで味わったことの無い感情が湧き上がってくる。その感情の正体を探るため、彼は無我夢中で奮闘し始める。別冊マーガレットに連載された安藤ゆきの同名コミック(もちろん私は未読 ^^;)の映画化だ。
汚れの無い聖人君子みたいな主人公像を映画の中で作り上げるには、並大抵のことではないと思う。しかし、作者は何を勘違いしたのか、全く演技経験の無い新人を起用することが、イノセントなキャラクターの創造に繋がると合点してしまったようだ。ここは逆に、十分な演技力を備えたキャストを持ってくるべきだった。よく知られた若手タレントが“色が付いている”ということで無理ならば、演劇畑から見付け出すという方法もあったのではないか。
演じる細田佳央太は頑張っていたとは思うが、ここでは主人公は純情無垢ではなくただのアホにしか見えない。相手役の関水渚の演技も同様で、不機嫌で怒鳴ってばかりの付き合いきれない女生徒に過ぎず、感情移入が出来ない。何より、どうしてこの2人が惹かれ合うようになったのか、よく分からないのが辛い。
ドラマ運びは全体的に散漫だが、いくら映画が進んでも改善する兆しは見えず、終盤近くになると何とファンタジーになってしまったのには呆れてしまった。石井監督にはこういう“絵空事”はまるで似合わない。リアリティを見据えていないと、この監督の良さは出ないのだ。
加えて岩田剛典や高畑充希、前田敦子といった高校生を演じるには年齢の高すぎる連中が出ていたり、かと思えば池松壮亮や戸田恵梨香、佐藤浩市などが本筋とはさほど関係の無いキャラクターに扮していたりと、キャスティングのチグハグ感が強い。ただしよく考えると、AKB系列(前田)とEXILE系列(岩田)を押さえているということは、一応昨今のラブコメの体裁は整えているとは思う(笑)。ロケ地は主に栃木県だが、あまり効果は上がっていない。平井堅による主題歌は良かった。