良い部分と良くない部分が混在している映画だが、実のところ良くない部分の方が多く、結果として及第点には達していない。聞けば巷の評判は悪くないようだが、その理由が見透かされてしまうのも何ともやりきれない気分になる。
2007年秋。東京郊外に住む東昇平は70歳の誕生パーティーを家族に開いてもらうが、実は認知症の症状が出始めていた。妻の曜子は長女麻里と次女の芙美にそのことを告げ、今後は心積もりしておくように伝える。2013年秋。病状が進んでゆく昇平を介護していた曜子だが、網膜剥離で入院することになる。芙美は代わりに父親の世話を買って出るが、予想以上にハードなので心が折れそうになる。曜子の手術は成功して退院するが、今度は昇平が骨折して入院する。認知症の父親とそれを見守る家族の7年間を描く、中島京子の同名小説の映画化だ。
最初に述べた“良い部分”とは、昇平役の山崎努の演技である。中学校校長も務めた厳格な人物が前後不覚になってゆく過程を、確かなパフォーマンスで観客に伝える。特に現役時代の威厳や家族に対する愛情を、薄れゆく意識の中で何とか保持しようとする様子には心打たれるものがある。曜子に扮する松原智恵子も妙演で、その“天然”なキャラクターが観る者の笑いを誘う。
さて“良くない部分”というのは、それ以外の全てである。芙美はスーパーで働きながらもカフェ経営の夢を持っているが、まるで上手くいかない。父親の期待に応えられない屈託もある。しかし、その言動は不自然だ。演じる蒼井優の力量が高いだけに、違和感だけが強調される。
麻里に関するパートは、ハッキリ言ってヒドい。麻里は夫と息子と共にアメリカに住んでいるが、都合7年も海外にいるのに最後まで英語が全然しゃべれない。夫は人間味がゼロで、息子は何を考えているの分からない。加えて麻里役の竹内結子は相変わらず演技力が無いので、余計に盛り下がってしまう。脚本も上等ではなく、そもそも映画は昇平が遊園地を徘徊する場面から始まるのだから、最後もそこに帰着して然るべきだが、実際はそうならずに訳の分からないエピソードで幕を閉じるというのは、明らかな不備だろう。
とはいえ、この映画が観客受けが良いというのも理解できる。なぜなら、描写が“ぬるい”からだ。介護の厳しい現実をスルーし、何となくハートウォーミングなホームドラマに仕立て上げることによって、観る者の薄甘いカタルシスを誘おうという作戦である。まあ、興行面ではそれもひとつの手だが、個人的には受け入れがたい。