面白い。内容がリアリズムの方向には振られておらず、登場人物は多分にカリカチュアライズされている。しかし、観ていて実に胸に刺さるのだ。誰しも胸の奥に秘めている身も蓋もない願望、そして“分かっちゃいるけど、やめられない”とばかりに自身を追い込んでしまう衝動などが、的確に表現されている。
20代後半のOLの山田テルコは、パーティで知り合ったマモルに一目惚れし、それ以来仕事も友情もそっちのけでマモルに尽くしている。しかしマモルはそんなテルコを“都合のいい女”としか見ていない。テルコの友人である葉子はナカハラという男と付き合っているが、葉子にとって相手は“都合のいい男”でしかない。そんな中、マモルに年上の交際相手が出来る。男勝りでサバサバしたその女・すみれはテルコや葉子を巻き込んで一泊の小旅行を企画するが、そこで彼らの関係性が微妙に揺らいでくる。角田光代による同名恋愛小説(私は未読)の映画化だ。
登場人物達の恋愛感情はすべて一方通行であり、そして皆がそのことに薄々気付いてはいる。しかし、その状況を直視しようとはしない。自身の言動がことごとく的外れで、自己満足の産物でしかないことを認識するのが怖いのだ。
何とか自分への言い訳を積み重ね、とにかく相手と繋がりを持つだけで良いのだと無理矢理納得しようとする。これは実に痛々しい構図なのだが、困ったことにそういう退嬰的な心理状態に陥る者(あるいは、陥ったことのある者)はけっこう多いと思う。なぜなら、そっちの方が楽だから。自分および相手に正面から向き合わず、ナアナアで済ませればそれに越したことはない。だが、少しでも人生を前に進めようと思うならば、それではダメなのだ。
映画では今までの状況を脱して一歩踏み出そうとする者と、それが出来ない者との対比を残酷なまでに映し出す。そして各キャラクターの戯画化が昂進すればするほど、その苦みは増してゆく。こういう仕掛けを違和感なく創出した監督の今泉力哉の力量は、大いに評価して良いだろう。ラストの扱いなど皮肉が効き過ぎていて、笑いながらも感心してしまった。
テルコを演じる岸井ゆきのは大健闘で、空回りを続けるヒロイン像を上手く表現していた。マモルに扮する成田凌は、すでに“第二のオダギリジョー”みたいな雰囲気を醸し出していて絶品だし、ナカハラ役の若葉竜也も好演だ。脇に片岡礼子や筒井真理子、江口のりこといったクセ者を配置しているのもポイントが高い。