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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ドント・ウォーリー」

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 (原題:DON'T WORRY,HE WON'T GET FAR ON FOOT)良い映画だと思う。単なる難病もの(兼お涙頂戴もの)ではなく、内面の深いところまで掘り下げ、観る者に普遍的な感慨をもたらす。キャストの頑張りも相まって、鑑賞後の満足感は高い。

 オレゴン州ポートランドに住むジョン・キャラハンは、酒に溺れる自堕落な生活を送っていたが、ある日飲み仲間の悪友が運転する車に同乗した際に事故に遭い、下半身不随になる。車椅子生活を余儀なくされた彼は、ますます捨て鉢になり酒の量も大幅に増えてゆく。だが、冷やかし半分で覗いてみた“断酒会”のリーダーであるドニーの生き方に感化され、少しずつ前を向き始める。そして、以前から得意としていたイラスト作成を活かし、麻痺の残る手で風刺漫画を描き始めるが、これが意外な反響を呼ぶ。2010年に59歳で世を去った風刺漫画家キャラハンの伝記映画だ。

 何といってもジョンとドニーとの関係性が面白い。親に捨てられ、捨て鉢になってアル中になり、果ては事故で下半身麻痺。不幸を絵に描いたようなジョンの人生が、何不自由ない暮らしをしているが、実は性的マイノリティで、しかも難病に罹っているという複雑な立場のドニーと出会うことによってコペルニクス的転回を見せる。

 ドニーが提示する“回復までのステップ”は、ジョンをはじめとする“断酒会”のメンバーのためだけではなく、ドニー自身が生き方を顧みるプロセスでもある。時代背景は70年代後半で、ベトナム戦争の後遺症により老荘思想がアメリカに広まっていたという事実は興味深く、世俗や既存の価値観にとらわれず無理せずに生きるという教義が、2人を救っていく。ジョンが不遇な境遇を恨まずに、それどころか今まで関わってきた人々に許しを請うことによって、新しい局面を切り開こうとするくだりは感動的だ。

 ガス・ヴァン・サントの演出はジョンが描く漫画を内面描写のモチーフとするなど、凝っていながら押しつけがましくなくスムーズにドラマを進めて好印象。主演のホアキン・フェニックスは名演と言うしかなく、いつもながら出演作によって外観も変えてくる芸達者ぶりに感心するばかり。ドニー役のジョナ・ヒルのパフォーマンスも見事だ。自らの運命に対して悩み続け、それでも超然としてそれを受け容れるカリスマ的人物を上手く表現している。

 ルーニー・マーラやジャック・ブラックも良い味を出しているし、ウド・キアが元気な姿を見せているのも嬉しい。とにかく人生、何があっても“ドント・ウォーリー”という態度で、鷹揚に構えて乗り切っていきたいものだ。

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