去る3月末、電機メーカーのパイオニアの東京証券取引所第1部で取引される株式が上場廃止となった。同社は出資を受ける香港ファンド“ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア”の完全子会社となる。加えて、大量のリストラを予定しているとのことだ。
パイオニア株式会社は2018年1月に創立80周年を迎えた老舗で、元々はスピーカーの作り手として世に出ている。そしてオーディオ機器全般に商品範囲を広げ、1960年代から80年代末にかけて、同社の音響製品は一世を風靡した。また、80年にはレーザーディスクプレーヤーの第一号機をリリースし、90年代末にはプラズマ型ディスプレイを世に問うなど、ヴィジュアル部門でも実績を残したメーカーであった。
しかし、バブル崩壊後は趣味のオーディオは斜陽化し、90年代後半からのDVDの普及によってレーザーディスクも役割を終えてしまう。さらには液晶テレビ普及による大幅なディスプレイ市場の価格低下のあおりを受け、同社が手掛ける高級プラズマ型製品は売れなくなる。ついには2008年のリーマンショックによって、決定的なダメージを被ってしまう。
2015年にはパイオニアのホームAV事業はかつてのライバル企業であるオンキヨー株式会社に移譲され、DJ機器事業も投資ファンドに売却してしまう。残るカーエレクトロニクス関連分野に傾注して生き残りを図るが、スマートホンのカーナビゲーション用アプリが幅を利かせるようになり、同社の販売する高級カーナビは伸び悩む。こういった、いわば八方ふさがりの状況に陥った結果が、今回の外資ファンド介入の一件に繋がっている。
以前、当ブログではパイオニアと並ぶオーディオ界の雄であった山水電気の破綻について書いたことがあるが、このパイオニアの経営危機に関しても似たようなことが言える。つまりは時流に乗ることが出来なかったのだ。
もちろん、パイオニアはオーディオ機器一筋だった山水電気とは違い、業務範囲は広く開発力もあった。だからこそ今まで生き残ってこられたとも言えるのだが、それでも業界のトレンドを見誤って今日の窮乏を招いている。
ではその“トレンド”とは何かというと、AV機器専門メーカーが大規模な企業形態のまま存続することの困難性であろう。特に高級ピュア・オーディオ機器のような趣味性の高い商品は、ユーザー層が限られるようになった昨今では、上質なものを少量供給するスタイルが望ましい。それには、一部上場するような大企業は不向きである。ガレージメーカーのような、小回りの利く形態が適当であるはずだが、経営陣は過去の成功体験が忘れられなかったらしく、企業規模や体制を抜本的に見直すことは出来なかったようだ。
どうしても大企業の形態を維持したかったのならば、ソニーのように手広いジャンルで事業部制を敷くか、あるいはアップルのように先進的なソフトウェア分野も押さえるなど、融通性を高めておく必要があったと思われる。
それでも、残ったカーエレクトロニクス事業に同社を支えられるような需要があればまだ良かったが、前述のように多くの場合スマホで間に合うようになっている。唯一の頼みの綱は自動車の自動運転技術だという話もあるが、くだんの外資ファンドはそれが目当てであろう。シャープのように外資導入で持ち直した例もあるが、下手すれば事業切り売りで解体の憂き目に遭うかもしれない。
いずれにしても、かつて山水電気やトリオ(現JVCケンウッド)と並ぶ名門と言われたブランドが傾いているのは寂しいことだ。ただし“昔は良かった”などとノスタルジーに浸るのもスマートではない。業績が悪化した企業は、退出するのみである。
さて、私自身はパイオニアのオーディオ製品をあまり使ったことは無い(テレビやレーザーディスクプレーヤーは所有していたことがあるが)。得意分野と言われていたスピーカーも、個人的には(一部を除けば)あまり好きではない。ただ、思い出に残っているのは、昔知人宅の応接間に鎮座していたパイオニア製のセパレート型ステレオである。家具調の仕上げが施された堂々とした佇まいだった。そういえばセパレート型ステレオを世界で初めて発表したのもパイオニアだ。それだけに、ある年齢より上の世代では、思い入れのあるメーカーであることは確かなようだ。
パイオニア株式会社は2018年1月に創立80周年を迎えた老舗で、元々はスピーカーの作り手として世に出ている。そしてオーディオ機器全般に商品範囲を広げ、1960年代から80年代末にかけて、同社の音響製品は一世を風靡した。また、80年にはレーザーディスクプレーヤーの第一号機をリリースし、90年代末にはプラズマ型ディスプレイを世に問うなど、ヴィジュアル部門でも実績を残したメーカーであった。
しかし、バブル崩壊後は趣味のオーディオは斜陽化し、90年代後半からのDVDの普及によってレーザーディスクも役割を終えてしまう。さらには液晶テレビ普及による大幅なディスプレイ市場の価格低下のあおりを受け、同社が手掛ける高級プラズマ型製品は売れなくなる。ついには2008年のリーマンショックによって、決定的なダメージを被ってしまう。
2015年にはパイオニアのホームAV事業はかつてのライバル企業であるオンキヨー株式会社に移譲され、DJ機器事業も投資ファンドに売却してしまう。残るカーエレクトロニクス関連分野に傾注して生き残りを図るが、スマートホンのカーナビゲーション用アプリが幅を利かせるようになり、同社の販売する高級カーナビは伸び悩む。こういった、いわば八方ふさがりの状況に陥った結果が、今回の外資ファンド介入の一件に繋がっている。
以前、当ブログではパイオニアと並ぶオーディオ界の雄であった山水電気の破綻について書いたことがあるが、このパイオニアの経営危機に関しても似たようなことが言える。つまりは時流に乗ることが出来なかったのだ。
もちろん、パイオニアはオーディオ機器一筋だった山水電気とは違い、業務範囲は広く開発力もあった。だからこそ今まで生き残ってこられたとも言えるのだが、それでも業界のトレンドを見誤って今日の窮乏を招いている。
ではその“トレンド”とは何かというと、AV機器専門メーカーが大規模な企業形態のまま存続することの困難性であろう。特に高級ピュア・オーディオ機器のような趣味性の高い商品は、ユーザー層が限られるようになった昨今では、上質なものを少量供給するスタイルが望ましい。それには、一部上場するような大企業は不向きである。ガレージメーカーのような、小回りの利く形態が適当であるはずだが、経営陣は過去の成功体験が忘れられなかったらしく、企業規模や体制を抜本的に見直すことは出来なかったようだ。
どうしても大企業の形態を維持したかったのならば、ソニーのように手広いジャンルで事業部制を敷くか、あるいはアップルのように先進的なソフトウェア分野も押さえるなど、融通性を高めておく必要があったと思われる。
それでも、残ったカーエレクトロニクス事業に同社を支えられるような需要があればまだ良かったが、前述のように多くの場合スマホで間に合うようになっている。唯一の頼みの綱は自動車の自動運転技術だという話もあるが、くだんの外資ファンドはそれが目当てであろう。シャープのように外資導入で持ち直した例もあるが、下手すれば事業切り売りで解体の憂き目に遭うかもしれない。
いずれにしても、かつて山水電気やトリオ(現JVCケンウッド)と並ぶ名門と言われたブランドが傾いているのは寂しいことだ。ただし“昔は良かった”などとノスタルジーに浸るのもスマートではない。業績が悪化した企業は、退出するのみである。
さて、私自身はパイオニアのオーディオ製品をあまり使ったことは無い(テレビやレーザーディスクプレーヤーは所有していたことがあるが)。得意分野と言われていたスピーカーも、個人的には(一部を除けば)あまり好きではない。ただ、思い出に残っているのは、昔知人宅の応接間に鎮座していたパイオニア製のセパレート型ステレオである。家具調の仕上げが施された堂々とした佇まいだった。そういえばセパレート型ステレオを世界で初めて発表したのもパイオニアだ。それだけに、ある年齢より上の世代では、思い入れのあるメーカーであることは確かなようだ。