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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「きっと、うまくいく」

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 (原題:3 IDIOTS)手が付けられないほど面白い(笑)。インド製娯楽映画だから多種多様なテイストがてんこ盛りであることは当然だが、本作は“他の作品”のように、話の辻褄が少々合っていなくても歌と踊りと勢いで乗り切ってしまおうというパターンが見受けられないのだ。お手軽のように見えて、ドラマツルギーの整合性はしっかり取れている。しかも、社会派的な視点も(抑制の効いたタッチで)盛り込まれており、鑑賞後の満足感は実に高い。

 高偏差値で知られる工科大学に入学したファルハーンとラージュー、そしてランチョーの三人はたちまち意気投合。ヤンチャが過ぎて学内でたびたび大騒動を巻き起こし、通称“3バカトリオ”として悪名をとどろかせる。すったもんだの挙げ句に何とか卒業にこぎつけるが、ランチョーだけが姿を消してしまう。それから10年経ち、ランチョーが街に戻ったと聞いた二人は彼を見つけようとするが、やがて意外な事実が明らかになってくる。

 映画は三人の在学中の出来事と、10年後のランチョーを探す旅とを平行して描く。二つの時制を交互に展開させるという手法は目新しいものではないが、監督ラジクマール・ヒラニの演出力は強靱で、それぞれに大きなドラマを複数用意し、しかもそれが互いのプロットの伏線を形成するという巧者ぶりを見せつける。それらがラストに結実して高い感銘度をもたらすのだから、まさに文句の付けようが無い。

 さらに、インド社会を覆う大きな問題にも言及する。それは、グローバル化だ。世界的な競争の激化が巻き起こり、競争に負けた国内産業は衰退する。結果、労働者の賃金の低下や失業がもたらされる。とにかく、金を稼ぐ能力が最優先され、それと相容れないものは容赦なく切り捨てられる。

 基礎的研究を完全無視して大企業への就職率アップだけに向かって邁進するこの大学の学長のスタンスも、その典型である。工学よりもやりたいことが他にあるファルハーンの悩みも、貧しい家族を支えようとするラージューの苦闘も同様だ。そしてランチョーの本当の生い立ちが明らかになるくだりは、思わず考えさせられてしまった。

 主演の三人は好調だが、中でもランチョー役のアーミル・カーンが際立っている。飄々として、それでいて自主性があり、自説を曲げない好漢を本当に魅力的に演じている。聞けば彼は40歳を過ぎているとのことだが、堂々と大学生を演じているのもアッパレだ(爆)。他の二人を演じるマドハヴァンとシャルマン・ジョシも実に良い。ヒロイン役のカリーナー・カプールも言うこと無し。

 次から次へと現れる見せ場はそれぞれがドラマティックで、各々のネタで一本の映画が出来てしまうほどだ。ギャグも満載で、場内は幾度となく笑いに包まれた。しかし残念ながらインド映画得意のミュージカルシーンは2回しかない(しかも、そのうち1回は野郎だけ ^^;)。上映時間がもう少し延びても良いから、あと2,3曲は挿入して欲しかった。とはいえ、(少し絵葉書的だが)美しい映像も相まって、これだけ無条件で観客を楽しませてくれる映画はそうないだろう。必見の作品だ。

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