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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」

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 (原題:BATTLE OF THE SEXES )取り上げた題材は面白く、提示されるモチーフも興味深い。演出は及第点には達しており、キャストも健闘している。しかし、感銘度はそれほどでもない。これはひとえに、過去の出来事を描く際に“現代のトレンド”を不自然な形で挿入しようとしているためだ。

 60年代後半から女子テニス界の頂点に君臨していたビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1しかない実態に異を唱え、仲間と共にテニス協会を脱退。70年に“女子テニス協会”を設立する。そんな彼女に挑戦状を叩き付けたのが、元世界チャンピオンで当時50歳代だったボビー・リッグスだ。

 彼はギャンブルで身を持ち崩し、資産家である妻からも別れを切り出されていた。そこで彼は“男性優位主義の代表”という名目で“女子テニス協会”にケンカを売ることにより世間の話題を集め、人生の一発逆転を賭けようとしたのだ。そして1973年、ヒューストンにおいて世界注目の“男女対抗試合”が敢行される。

 映画で描かれる時代は、ヴェトナム戦争批判と並び、ウーマンリブが盛り上がっていた。キング夫人も女子スポーツ選手の権利確立を求めて“女子テニス協会”を創立したのだ。一方のリッグスも、基本的には売名行為だが、建前としてはウーマンリブに対抗するマッチョイズムの代表として立ち上がったという形を取っている。

 構図としては単純であると思われるが、どういうわけか作者はここにLGBTの解放といった要素を織り込ませる。これはビリー・ジーンが同性愛者であり、彼女のスタッフにも同様の者がいたという事実をクローズアップさせたものだ。しかし、果たして当時はそんなことまで本人達や周りの人間が考えていたのかどうか、疑問が残る。

 この出来事は、題名通りの“性別間の戦い”であり、当事者達はまずそのテーマに沿って行動していたのではないだろうか。さらには登場人物に“新しい愛の形がどうのこうの”と言わせているのは、何やら取って付けたような印象だ。別に“現代のトレンド”を持ち出してはいけないという話ではないが、もうちょっと上手くやって欲しい。

 監督のバレリー・ファリスとジョナサン・デイトンはソツのない仕事に徹しており、時代風俗の再現にも抜かりは無い。だが、肝心の試合の場面が盛り上がらないのは減点対象だろう。ビリー・ジーンを演じるエマ・ストーンは頑張っているが、あまりにもキング夫人に似せようとしているあまり、トレードマークのファニーフェイスが封印されてしまったのは不満だ。対してリッグス役のスティーヴ・カレルは絶好調。実際にこういう人物だったのだろうという説得力は、かなり大きい。彼のパフォーマンスを観るだけで、入場料のモトは取れるかもしれない。

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