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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「モリーズ・ゲーム」

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 (原題:MOLLY'S GAME)食い足りない部分はあるが、とにかくジェシカ・チャステイン扮するヒロインの存在感が圧倒的で、それだけで入場料のモトを取った気にさせてくれる。これが実話を元にしているというのも驚きで、まさに世の中にはいろいろな生き方があるものだと、改めて感じ入った。

 2002年の冬季オリンピックにおける女子モーグルの北米予選。ランキング3位のモリー・ブルームは、満を持して試合に臨むが、スキー板が松の枝にぶつかって外れてしまい、転倒して重傷を負う。それによって競技から引退せざるを得なくなった彼女は、ロスアンジェルスで休養中にバイト先の支配人からポーカー・ゲームのアシスタントを頼まれる。軽い気持ちで引き受けたモリーだが、そこは各界の有名人が密かに集まり大金が飛び交う“闇ポーカー”の世界だった。

 彼女は驚きつつもそのシステムに興味を持つのだが、ある日突然解雇されてしまう。そこでモリーはそこで吸収したノウハウを元に、今度はニューヨークで自前の賭場を持つに至る。だが2012年に突然FBIに踏み込まれ、違法賭博の罪で逮捕。彼女は何人もの弁護士に断られた末、法廷では有能だが気難しいチャーリー・ジャフィーへの依頼を取り付けることに成功する。

 スポーツに打ち込んでいた主人公が、どうしてギャンブルの世界に入り込んだのか、その具体的根拠が示されていない。また、肝心の裁判のプロセスも分かりやすく説明されていたとは言えない。ポーカーのシーンも各プレーヤーの持ち札が示されることもあるが、単発的かつ短時間で観ていてストレスを感じてしまう。それに、映画で描かれた顛末の後、実際にモリーはどうなったのか一切説明されていないのも不満だ。

 しかしながら、それらが大きな欠点と思えなくなるほど、ヒロインの造型には力が入っている。モリーにあるのは“勝利への執念”だ。それは志半ばで断念せざるを得なかったスキー競技の代替行為としての、心と身体を削るスリリングなゲームとしての賭場の運営である。

 普通、こういうアグレッシヴなヒロインが活躍する映画だと、主人公を公私ともに支える二枚目野郎なんかが登場するものだが、本作では存在しない。モリーに影響を与えた父親も、弁護を引き受けるジャフィーも、対等に主人公とぶつかり合う。また、ポーカーにハマる客の生態の描写に関しても容赦ない。特に、わずかな迷いから負けを喫し、そのまま人生を転落してゆく中年男の扱いなど、観ていて身を切られる思いだ。

 これが第一作となるアーロン・ソーキンの演出はパワフルで、最後まで観客を引きずり回す。チャステインの演技は文句なし。父親役のケヴィン・コスナーやジャフィーに扮するイドリス・エルバのパフォーマンスも万全だ。シャルロッテ・ブルース・クリステンセンのカメラによる寒色系の画調も印象に残る。

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