(原題:THE FLORIDA PROJECT )正直なところ上映中は退屈で眠くて、何度も劇場を出ようと思った。しかし、ラストシーンで一気に目が覚める。劇中のダラダラとした展開は、すべてがこの幕切れの“伏線”であったと思えば合点がいく。こういう映画の作り方はいつも成功するとは限らないが、今回は上手くいった部類だろう。
フロリダのディズニー・ワールドのすぐ近くにある安モーテル“マジック・キャッスル”。6歳の女の子ムーニーは、母親でシングルマザーのヘイリーとそこで暮らしている。ムーニーの遊び相手は、同世代の男の子スクーティと、最近越してきたジャンシーだ。3人はいつも徒党を組んで悪さばかりをしている。モーテルの管理人ボビーはそのたびにムーニー達を叱るが、悪ガキ共は反省している様子は無い。
仕事が見つからないヘイリーは、ニセの香水を観光客に売りつける等して何とか糊口を凌いでいたが、やがてそれも出来なくなる。ついには“禁じ手”に走る母親の様子が周囲に知られるようになり、地域の児童相談所が介入する事態を招く。
煌びやかなディズニー・ワールドの裏手には、こういう貧民街に近い状態が展開されている事実に驚かされる。“マジック・キャッスル”は紫色に塗装され、当初は観光客を見込んでいたらしいが、今では安っぽいラブホテルのような有様だ。また、大通り沿いに林立している土産物屋にも、そこはかとなく“場末感”が漂う。まさに、貧富の差が拡大しているアメリカの状況を鮮明に描き出していると言えよう。
しかし、この興味深い“お膳立て”の中で繰り広げられるドラマは、大して面白くはない。身持ちの悪い女は、やっぱり愚行の繰り返しで、描き方自体は何ら映画的興趣を呼び込む工夫はされていない。ムーニー達のおこないも単にイタズラを芸も無くダラダラと追うだけで、まったく笑えないしカタルシスも無い。中年になってもモーテル管理人の身に甘んじているボビーの屈託を十分表現するにはエピソードが足りない。
だが、そんなマイナス要因を吹き飛ばすだけのインパクトが、最後のシーンにはある。断っておくが、この場面によって登場人物たちの境遇が劇的に好転するわけではない。それどころか、彼らが認識している“外の世界”の地平が明らかになり、切ない想いをしてしまう。それでも、幼いムーニー達が“ここではない、どこか”の存在を知ることによる感慨がスクリーンに充満し、胸がいっぱいになるのだ。
ショーン・ベイカーの演出には特段の才気は感じられないが、それでもカラフルな画面造型は強い印象を残す。演技面ではボビー役のウィレム・デフォーが出色。人生をあきらめたような雰囲気と、それでも“宿泊客”達のことが気になって仕方がない面倒見の良さを両立させている。子役は全員達者だが、同時にヘイリーに扮したブリア・ヴィネイトも要注目だと思う。これがデビュー作ながら、蓮っ葉でヤバそうなオーラを発散していて圧巻だ。