(原題:Trouble with the Curve)余計なエピソードや消化不良のプロットも目立つのだが、後味の良い佳作であることは間違いない。なぜならストーリー自体が(ベタな書き方で恐縮だが ^^;)“約束通り”であるからだ。ハートウォーミングな筋書きを求めて映画館に足を運ぶ観客の期待を決して裏切ることはなく、適度な満足感を与えた後に劇場から送り出す。安心して接することの出来るシャシンだ。
アトランタ・ブレーブスのベテランのスカウトであるガスは長年その“目利き”によって有力選手を発掘してきたが、老境に入った今は眼病にも悩まされ、思い通りの仕事ができない状態だ。ましてや昨今はブラッド・ピット主演の「マネーボール」で描かれたように、データを重視するスカウティングが幅を利かせているようで、ガスの居場所が無くなってきている。引退も示唆される彼をみかねた娘のミッキーは、無理矢理にガスの他州への出張に同行する。
物語は予想通りに進む。アナクロだと思われていたガスの方法論が、実は有用なものであることが終盤で語られるし、データ偏重主義の傲慢なマネージャーはお灸を据えられる。弁護士であり、重要な案件を抱えつつも父親と向き合う道を選んだ健気なミッキーには、それ相応のハッピーな結末が待っている。
ガスから才能を見出され、現在はレッドソックスのスカウトをしているチョイ二枚目な野郎が出てきたと思ったら、やっぱりミッキーと仲良くなる(笑)。早くに母を亡くしたミッキーの、父親に対する屈託もほぼ解消されるし、それを取り持つ“味のある人物(ここではスカウト仲間)”も、ちゃんと登場する。
だが、それらは“冗長さ”とは縁遠いものだ。ガスに扮するのはクリント・イーストウッドである。久々に自身の監督作以外での登板だが、話を絵空事にさせないだけの渋すぎる存在感を発揮。絵に描いたような不良老年ながら、屈折した親バカぶりで逆に娘との距離が開いてしまったという、よくありそうだがヘタに描くと臭くて見ていられないシチュエーションに楽々と説得力を付与させている。
ミッキーに扮したエイミー・アダムスの、一見醒めているようで実はナイーヴな心情を併せ持ったキャラクターを実体化させる力量にも感服。ジャスティン・ティンバーレイクやジョン・グッドマンら、脇の面子も申し分ない。そして何よりも、郊外の球場の雰囲気や明日を信じて頑張る若者達の描き方を通じて、古き良きアメリカの原風景を垣間見せているあたりがポイントが高い。
もちろん試合のシーンも手抜きが無く、見せるべきところは効果的に演出されている。ロバート・ロレンツ監督の腕前は才気走ったところは無いが、堅実だと思う。
もっとも、ミッキーの幼い頃のトラウマになりそうなエピソードの扱い方や、終わり近くになって有能な新人が都合良く現れるところなどは感心しない。ガスがこれから眼病にどう対峙するのかもあまり描かれず、尻切れトンボになっていると思う。そもそも、いくらデータ偏重の弊害とはいえ、変化球を打てない選手を平然と採用するほど大リーグは甘くはないだろう(笑)。しかし、これらの瑕疵があったとしても、観て損の無い映画だと言える。御都合主義も、たまにはいいものだ。