ベタな設定のお手軽なドタバタ劇なから、意外にも楽しめた。どんなに題材が陳腐でも、脚本やキャスティング等に手を抜かずにキッチリとやれば良い結果に繋がる。1時間40分と上映時間が短めなのもポイントが高い。
創業30年になる食品会社・朝比奈フーズの経理課に勤務する玲音は、地味で冴えない派遣OL。ある日、会社役員の子供がコネ入社するために要員を空ける必要が生じ、彼女はリストラされてしまう。一方、社長の朝比奈玲男はやり手だが、無類の女好きで超ワンマン。そんな彼が車を運転中に身体に異常を感じ、オフィスから出てきた玲音と接触事故を起こす。だが、玲男が気が付くと、玲音と内面が入れ替わっていた。
病院を抜け出して会社まで辿り着くが、当然のことながら自分が社長だとは誰も信じてくれない。しかし転んでもタダでは起きない彼は、いまだ意識が戻らない社長(中身は玲音)の代理である甥の副社長・政夫の秘書として会社に潜り込むことに成功。やがて会社乗っ取りを企む勢力の存在が明らかになってくる。
観る前は“今さら入れ替わりネタか?”と胡散臭い印象を持っていたのだが、本作は力業でねじ伏せるべく、堂々と「転校生」や「君の名は。」といった同じ仕掛けの映画のパロディまでやってのけている。また、それが単なる“開き直り”に終わっていない。
玲音(中身は玲男)と若手社員の一条との(イレギュラーな)ロマンスや、友人のサリナとの珍妙なやり取り、果てはヒロインの出生の秘密なんてのも挿入され、矢継ぎ早にモチーフを繰り出すことによって題材のマンネリ化を巧妙に回避している。食品会社を舞台にしているだけあって、料理関連のネタを網羅しているのも悪くない。塚本連平の演出はテンポが良く、悪ノリも下品にならないギリギリのところで堪えている。
そして本作の最大の“収穫”は、主演女優の知英の存在感だ。玲男に扮しているのが竹中直人なので、当然コメディ場面は彼が主に受け持つと予想していたが、何と実際は観客の笑いを多く誘っているのは知英の方である。役柄と同じく、本当にオヤジが中に入っているのではないかと思うほど、吹っ切れた演技。それに表情がとても豊かで、身体のキレも良い。少なくとも同じ事務所の桐谷美玲や桜庭ななみよりも、数段面白い素材である。これからもずっと日本で仕事をして欲しいものだ。
他にもプレイボーイの税理士をあざとく演じる山崎育三郎や、大政絢、吉沢亮、斉藤慎二、ミッツ・マングローブ、河井青葉など、個性的なキャスト陣がそれぞれ持ち味を発揮している。すべてが丸く収まったと思ったら、またもやトラブルが起こりそうな幕切れ(まあ、予想は付いていたけど)も含めて、鑑賞後の満足度は決して低くない。