(原題:Inside Moves)80年作品。大作ばかり手掛けていた感のあるリチャード・ドナー監督だが、こういうヒューマン・ドラマも撮っている。しかも、出来が良い。彼がこの路線を続けていたら、スペクタクル映画の仕事よりは“実入り”は少ないかもしれないが(笑)、各映画賞を賑わせるような“名声”は得ていたのではないだろうか。
孤独な青年ローリーは、ビルの10階から飛び降りる。何とか一命はとりとめたが、障害が残って歩行が困難になっててしまった。ある日、彼がふらりと立ち寄ったマックスという名のバーは、偶然にも身体の一部に障害を持つ者ばかりが集まる店だった。そこで彼は、ジェリーという足の不自由な男と仲良くなる。ジェリーは大のバスケットボール好きで、彼自身も実はプロに匹敵する潜在能力を持っていたのだ。ジェリーの足は、手術をすれば直る可能性があったが、それには巨額の手術代が必要だった。
そんな中、店主のマックスが心臓発作で倒れる。ローリーは思いがけず手にした親族の遺産で、店の権利の半分を買い取る。新たに雇った従業員のルイーズに一目惚れしてしまう彼だが、ジェリーも彼女のことが気になるらしい。やがてプロ・バスケットボール選手がジェリーの才能を見込み、手術代を提供することを申し出る。
ローリーがマックスのような店の常連になったことや、彼が遺産を手にするというモチーフ、ジェリーがバスケットボールの実力者であること等、御都合主義的な設定は目立つ。だが、そんな欠点も気にならなくなるのは、主人公達の置かれた境遇が丹念に描かれているからだ。
ケガをしてマックスの店の客達と知り合うまで、他人と親密な関係を築けなかったローリーの懊悩。バスケットボールが好きなのに、足の障害のせいで思い切りプレイが出来ないジェリーの屈託。さらにかつての恋人のアンは薬物中毒で、立ち直らせようとするジェリーの努力も無駄に終わる。そんな絶望に身もだえする彼らが、僅かな希望を見出して明日を生きる元気を取り戻してゆく過程が、無理なく綴られている。登場人物達が互いにエールを送るラストは感動的だ。
ドナーの演出は堅実で、余計なケレンも無く丁寧に各キャラクターの内面をすくい上げる。ローリーに扮するジョン・サヴェージ、ジェリー役のデイヴィッド・モース、共に好演。ルイーズを演じるダイアナ・スカーウィッドも魅力的だ。ラズロ・コヴァックスのカメラによる映像やジョン・バリーの音楽も味わい深い。なお、邦題とは違い、映画の舞台はオークランドである。