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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「カラーパープル」

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 (原題:THE COLOR PURPLE)スティーヴン・スピルバーグ監督によるオリジナル版(85年)を昔観たときは、当時はSFやアドベンチャー等の専門家だと思われていたこの作家が新機軸を打ち出したということで驚いたものだ。しかも、ウェルメイドに徹して鑑賞後の満足度は決して低いものではない。しかしながら業界筋では“スピルバーグとしては畑違いだ”ということらしく、アカデミー賞では無冠に終わっている。

 今回はブロードウェイでミュージカル化された作品を基にミュージカル映画としてリメイクされたわけだが、正直、この企画自体に違和感を拭えなかった。題材がシリアスで緻密な作劇を必要とする作品にも関わらず、これをミュージカル化すると当然のことながらドラマの密度が下がるのではないか。で、実際に観てみるとその不安は的中した。見かけは賑やかだが、中身は薄い。まあ、ブロードウェイで観る分には迫力だけで圧倒されるのかもしれないが、映画にするにはコンセプトをもっと詰めるべきだった。



 ストーリーラインはオリジナルとほぼ同じだ。1909年のジョージア州の田舎町。少女セリーは出産するが、すぐさま赤ん坊はヨソに貰われてしまう。彼女には器量が良く賢い妹ネッティがいたが、セリーはミスターと呼ばれる横暴な男と結婚されられ、妹とは生き別れになる。希望の持てないミスターとの生活が続く中、ミスターは愛人の歌手シャグを家に連れ帰る。当時としては“進歩的”な精神の持ち主だったシャグに触発され、セリーは自らの生き方を見直すようになっていく。

 このようなヘヴィな設定の中では、どう考えてもミュージカルの要素が入り込むことはあり得ない。ネッティは恵まれない生い立ちである割には最初から悲壮感が乏しく、セリーにしても切迫したものが感じられない。言い換えれば、重い展開になることを回避して口当たり良く仕上げたのが本作ではないのか。特に終盤の顛末は御都合主義の最たるもので、観ていてシラケてしまった。ブリッツ・バザウーレの演出は可も無く不可もなしで、キャストも皆頑張っているはいるが、印象には残らない。

 それでもミュージカルシーンが優れていれば高得点が望めるのだが、出演者の努力の甲斐も無く魅力的なパフォーマンスや引き込まれるような楽曲のメロディ・ラインも無い。何やらワークアウトのプロモーション映像を観ているようだ。ファンテイジア・バリーノにタラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、そしてH.E.R.といった出演陣もパッとせず。ただルイス・ゴセット・Jr.が久々に顔を出しているのは嬉しかった。

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