(原題:HAPPINESS FOR BEGINNERS )2023年7月よりNetflixから配信されたラブストーリー。設定はありきたりで、ストーリーも意外性は少ない。だが、観る者の神経を逆なでするようなキャラクターやエビソードは存在せず、必要以上にヘヴィなモチーフも取り入れられていないため、ストレス無く向き合える。103分というコンパクトな尺で、キャストは皆好演。そして何より映像がキレイだ。個人的には観て良かったと思っている。
教師のヘレンは数年前に結婚した旦那が極度の浮気性のため、やっとの思いで離婚する。そんな過去を吹っ切るため、彼女は過酷なハイキングツアーに参加するが、なぜかヘレンの弟の友人で元医者のジェイクもツアーのメンバーに名を連ねていた。その行程は、コネティカット州からニューヨーク州にかけての山間部の自然保護区を踏破するというもの。若いコーディネーターのベケットの高圧的な指導に閉口しながらも、彼らのグループは次第に結束を深めてゆく。キャサリン・センターによる小説の映画化だ。
ヘレンと行動を共にする者たちはそれぞれ屈託を抱えていて、何とか現状を変えたくてたまらない。しかし、それらはいたずらに重々しいものではなく、ドラマのアクセントとして機能させるのみだ。途中でメンバーの一人がピンチに陥るが、決してシビアな展開には持って行かない。考えてみればジェイクの境遇などはかなり厳しいのだが、ヘレンとの関係性によって“何とかなるのではないか”という安心感を醸し出している。
脚色も担当したヴィッキー・ワイトの演出はスムーズで、才気走ったところは無いものの、手堅く最後まで映画を引っ張っている。ダニエル・ベッキオーニのカメラによる紅葉が映えるコネティカット州の山あいの風景は痺れるほど美しく、この映像を眺めているだけで何だか得した気分になる。
インドア派(?)の私としては実際はこういうハードなアウトドア活動は遠慮したいのだが、難行苦行の末にしか巡り逢えない風景があるというのは、認めざるを得ない。主演のエリー・ケンパーは好調。相手役のルーク・グライムスをはじめ、ニコ・サントス、ベン・クック、シェイボーン・ウェブスター、ブライス・ダナーなどの面子も万全の仕事ぶりだ。