出来はかなり良い。これはひとえに、題材と監督の資質との絶妙なマッチングによるものだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、いくら優れた企画があっても、スタッフを適材適所に配置させなければ映画は失敗に終わる。そこを上手くやるのがプロデューサーの腕の見せ所なのだが、日本映画の場合はそのあたりが実にいい加減なケースが多い。その点、本作は珍しい成功例であり、本年度の邦画では確実に記憶に残る内容だ。
月経前症候群(PMS)に悩む会社員の藤沢美紗は月に一度はイライラが抑えられなくなり、その時は職務を果たすことも難しい。幸いにも会社側は障害に理解があり、社長はそんな彼女を見守っている。ところが新たな同僚の山添孝俊のある行動が切っ掛けで、美紗は怒りを爆発させてしまう。だが孝俊はパニック障害を抱えていて、どうやって日々生きていったら良いのか分からなかったのだ。2人は互いの境遇を打ち明ける間に、特別な感情が芽生え始める。瀬尾まいこの同名小説の映画化だ。
監督の三宅唱は対象を一歩も二歩も引いたところからストイックに捉えて、いわばドキュメンタリー・タッチに近い作風を持っていると思うのだが、過去の彼の作品はそれに合っていなかった。いずれもストーリーを盛り上げる必要性のある、いわばプログラムピクチャー的なシャシンばかりで、あまり評価は出来ない。しかし本作は、彼の持ち味が活きる内容だ。
メンタル面でのハンデを持つ主人公たちの描き方は、本当にナチュラルである。大方の観客が期待してしまうような、孝俊と美紗が反発し合いながらも恋仲になるといったラブコメ展開には決してならない。それでいて2人の関係は同志のように深く、互いを信頼している。ハッキリ言って、無理矢理なラブコメ路線など現実にはそうあり得ないのだ。まずは相手のことを理解し、立場をわきまえたまま常識的な対応をするのが常だろう。まあ、中には色恋沙汰に発展することもあるかもしれないが、それは結果論に過ぎない。
そしてこの映画の秀逸な部分は、主人公たちが自身の症状は改善されなくても、相手や職場の仲間や取引先など、周囲の者たちへのフォローが可能であることに気付く点だ。それが彼らの“成長”であり、下世話な恋愛話よりも数段グレードが高く、かつ普遍的だと思う。終盤の2人の身の振り方も、実に納得出来るものである。
主演の松村北斗と上白石萌音は朝ドラでも共演して息はピッタリ。演技も申し分ない。会社の社長を演じる光石研や、孝俊の前の職場の上司に扮する渋川清彦、孝俊を憎からず思っている千尋役の芋生悠、他に藤間爽子や久保田磨希、宮川一朗太、りょう、丘みつ子など、パフォーマンスに難のある者が一人も出ていないのは気持ちが良い。あえて16ミリフィルムで撮られた映像はこの監督のキャラクターに合致しているし、Hi’Specによる音楽も見事だ。
月経前症候群(PMS)に悩む会社員の藤沢美紗は月に一度はイライラが抑えられなくなり、その時は職務を果たすことも難しい。幸いにも会社側は障害に理解があり、社長はそんな彼女を見守っている。ところが新たな同僚の山添孝俊のある行動が切っ掛けで、美紗は怒りを爆発させてしまう。だが孝俊はパニック障害を抱えていて、どうやって日々生きていったら良いのか分からなかったのだ。2人は互いの境遇を打ち明ける間に、特別な感情が芽生え始める。瀬尾まいこの同名小説の映画化だ。
監督の三宅唱は対象を一歩も二歩も引いたところからストイックに捉えて、いわばドキュメンタリー・タッチに近い作風を持っていると思うのだが、過去の彼の作品はそれに合っていなかった。いずれもストーリーを盛り上げる必要性のある、いわばプログラムピクチャー的なシャシンばかりで、あまり評価は出来ない。しかし本作は、彼の持ち味が活きる内容だ。
メンタル面でのハンデを持つ主人公たちの描き方は、本当にナチュラルである。大方の観客が期待してしまうような、孝俊と美紗が反発し合いながらも恋仲になるといったラブコメ展開には決してならない。それでいて2人の関係は同志のように深く、互いを信頼している。ハッキリ言って、無理矢理なラブコメ路線など現実にはそうあり得ないのだ。まずは相手のことを理解し、立場をわきまえたまま常識的な対応をするのが常だろう。まあ、中には色恋沙汰に発展することもあるかもしれないが、それは結果論に過ぎない。
そしてこの映画の秀逸な部分は、主人公たちが自身の症状は改善されなくても、相手や職場の仲間や取引先など、周囲の者たちへのフォローが可能であることに気付く点だ。それが彼らの“成長”であり、下世話な恋愛話よりも数段グレードが高く、かつ普遍的だと思う。終盤の2人の身の振り方も、実に納得出来るものである。
主演の松村北斗と上白石萌音は朝ドラでも共演して息はピッタリ。演技も申し分ない。会社の社長を演じる光石研や、孝俊の前の職場の上司に扮する渋川清彦、孝俊を憎からず思っている千尋役の芋生悠、他に藤間爽子や久保田磨希、宮川一朗太、りょう、丘みつ子など、パフォーマンスに難のある者が一人も出ていないのは気持ちが良い。あえて16ミリフィルムで撮られた映像はこの監督のキャラクターに合致しているし、Hi’Specによる音楽も見事だ。