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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

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 (原題:DUMB MONEY)同じく金融ネタを扱った快作「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)ほどのインパクトは無いが、これはこれで十分に楽しめるシャシンだ。しかも「マネー・ショート」みたいな専門用語のオンパレードて一般観客を置き去りにするような傾向は無く、誰が観ても作者の言いたいことが伝わってくる。ハジけた演出とキャストの頑張りも要チェックだ。

 2020年、マサチューセッツ州に住む会社員キース・ギルは、赤いハチマキにネコのTシャツ姿で“ローリング・キティ”と名乗り株式投資情報を日々動画配信するという“別の顔”を持っていた。彼はアメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売するゲームストップ社を贔屓にしており、すでに5万ドルも同社の株に注ぎ込んでいた。キースは同社が過小評価されていると訴えると、彼の主張に共感した多くの小口の個人投資家がこの株を買い始め、2021年には株価は爆上がり。ゲームストップ株を空売りして一儲けを狙っていた大口の富裕層は大きな損失を被った。



 この事件は連日ニュースで報道され、キースは気鋭の相場師として持て囃される。出てくる株式用語は“空売り”ぐらいで、もちろんその意味は把握する必要はあるが、それを別にすれば平易な展開だ。もちろん、キースとその支持者の行動はコロナ禍で外出できずに娯楽を求めていた者が多かったという背景を抜きにしては考えられない。

 しかし、本作は株式投資の何たるかを描出している点で、かなりの求心力を獲得している。ゲームストップ株は高騰するが、キースたちは決して株式を売却しないのだ。彼らはゲームストップ社の業態と姿勢を評価しているだけで、単なる投機の道具とは思っていない。個人投資家にとっての株の購入とは、その企業を応援するためのものだ。マネーゲームに対するアンチテーゼを何の衒いも無く披露している点で、たとえエクステリアがイレギュラーであっても、見応えたっぷりの映画に仕上がっている。

 クレイグ・ギレスピーの演出はオフビートのコメディタッチで、観る者によっては“やり過ぎ”と思われるかもしれないが、作品のセールスポイントになっているのは確かだ。主演のポール・ダノは絶好調。お調子者のようで実は熱血漢という、たぶん実物もこういうキャラクターなのだろうという説得力がある。

 ピート・デイヴィッドソンにヴィンセント・ドノフリオ、アメリカ・フェレーラ、ニック・オファーマンといった脇の面子も万全。特に主人公の妻に扮したシャイリーン・ウッドリーが、久しぶりにイイ味を出していた。なお「マネー・ショート」を観た際も思ったが、劇中の法人などは全て実名で表現されているのは感心する。もしも同じような題材を日本映画で扱えば、いらぬ忖度が罷り通って実名も出せない生温いシャシンに終わっていたことだろう。

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