(原題:POOR THINGS )ヨルゴス・ランティモス監督の前作「女王陛下のお気に入り」(2018年)よりはマシな出来映え。少なくとも最後まで退屈せずに付き合えた。ただ、世評通りに大絶賛するわけにはいかない。とにかく、物足りなさが全編を覆う。その原因はいろいろと考えられるが、一番大きなポイントは、鑑賞する前に私はアラスター・グレイによる原作を読んでいたことだろう。両者があまりにも違うので、面食らってしまったというのが正直な感想だ。
ヴィクトリア朝時代のスコットランドのグラスゴー。若い人妻ベラは人生を悲観して川に身を投げる。天才外科医ゴッドウィン・バクスターはその遺体を引き取り、妊娠中だったベラのお腹にいた胎児の脳を移植し、彼女を奇跡的に蘇生させる。ベラは驚くべきスピードで“成長”を遂げるが、広い世界を自分の目で見たいという欲求に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーンに誘われて大陸横断の旅に出る。
悩み多き人生から解放されるが如く生まれ変わったヒロインが、いろんな経験を積んで徐々に魅力を会得していくという、簡単に言えばそういう話だ。彼女の体験の中で大きなウェイトを占めるのがパリの売春宿で働いたことで、映画の中でも大きな尺を取られている。ところが、原作ではこのパートは大して重要なモチーフではない。
それどころか、小説版ではベラがゴッドウィンの手によって生き返るという物語の発端自体が怪しいものとされている。それが明らかになるのは、小説が一度エンドマークを迎えた後に展開する“もうひとつの物語”に示されていることで、ハッキリ言ってこの“パート2”の方が、それまで語られていたことよりも数段面白いのだ。
対してこの映画版は、フランケンシュタインの亜流みたいな設定は別としても、性遍歴によって無垢な女性が一皮剥けるという、まるで「エマニエル夫人」みたいなシンプル過ぎる構図しか見えてこない。終盤になると話はどんどん在り来たりになって、単なるSFファンタジー編にしか思えなくなる。
ランティモスの演出は前回とは違って弛緩せずに何とか場を保たせているが、仰々しく展開する奇態なセットや美術に頼り切りの感があり。そのセンスも、既視感が強い。私のように無駄に映画鑑賞歴が長いと、テリー・ギリアムやピーター・グリーナウェイ、デレク・ジャーマンあたりの作品群との類似性ばかりが気になってしまう(まあ、ホリー・ワディントンによる衣装デザインだけは良かったけどね)。
主演のエマ・ストーンはとても頑張っている。しかし。ここまで“身体を張る”必要があったのか疑問だ。加えて、R18指定ならではの性的シーンの釣瓶打ちは、困ったことに少しもエロティックではない。マーク・ラファロにラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、キャサリン・ハンター、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラといった脇のキャストも印象に残らず。評価に値するのはゴドウィンに扮したウィレム・デフォーの怪演ぐらいだろう。
ヴィクトリア朝時代のスコットランドのグラスゴー。若い人妻ベラは人生を悲観して川に身を投げる。天才外科医ゴッドウィン・バクスターはその遺体を引き取り、妊娠中だったベラのお腹にいた胎児の脳を移植し、彼女を奇跡的に蘇生させる。ベラは驚くべきスピードで“成長”を遂げるが、広い世界を自分の目で見たいという欲求に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーンに誘われて大陸横断の旅に出る。
悩み多き人生から解放されるが如く生まれ変わったヒロインが、いろんな経験を積んで徐々に魅力を会得していくという、簡単に言えばそういう話だ。彼女の体験の中で大きなウェイトを占めるのがパリの売春宿で働いたことで、映画の中でも大きな尺を取られている。ところが、原作ではこのパートは大して重要なモチーフではない。
それどころか、小説版ではベラがゴッドウィンの手によって生き返るという物語の発端自体が怪しいものとされている。それが明らかになるのは、小説が一度エンドマークを迎えた後に展開する“もうひとつの物語”に示されていることで、ハッキリ言ってこの“パート2”の方が、それまで語られていたことよりも数段面白いのだ。
対してこの映画版は、フランケンシュタインの亜流みたいな設定は別としても、性遍歴によって無垢な女性が一皮剥けるという、まるで「エマニエル夫人」みたいなシンプル過ぎる構図しか見えてこない。終盤になると話はどんどん在り来たりになって、単なるSFファンタジー編にしか思えなくなる。
ランティモスの演出は前回とは違って弛緩せずに何とか場を保たせているが、仰々しく展開する奇態なセットや美術に頼り切りの感があり。そのセンスも、既視感が強い。私のように無駄に映画鑑賞歴が長いと、テリー・ギリアムやピーター・グリーナウェイ、デレク・ジャーマンあたりの作品群との類似性ばかりが気になってしまう(まあ、ホリー・ワディントンによる衣装デザインだけは良かったけどね)。
主演のエマ・ストーンはとても頑張っている。しかし。ここまで“身体を張る”必要があったのか疑問だ。加えて、R18指定ならではの性的シーンの釣瓶打ちは、困ったことに少しもエロティックではない。マーク・ラファロにラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、キャサリン・ハンター、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラといった脇のキャストも印象に残らず。評価に値するのはゴドウィンに扮したウィレム・デフォーの怪演ぐらいだろう。